「Half moon」(87)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

昌の家に泊まった爽子は風早と会う朝を迎えた。昨夜から一転して晴天の朝だった。

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それではどうぞ↓
































**********



ピチピチピチ


「うわぁ〜〜〜いい天気!!昨日、すごい雷だったのにね」


昌はばっとカーテンを開けると、大きく伸びをした。横を見るとすでに布団をきれいにたた

んで、服を着替え終わった爽子がいた。


「お・・はよう。昌さん」

「おはよ〜爽子ちゃん。よく眠れた?」

「う、うん」

「よかった〜。また〜きれいにたたんでくれて。食事すぐ作るね。簡単でいい?」

「あっお構いなく!」

「いーの!私が食べるんだから」

「じゃ、手伝います」

「いいからっ!ほら爽子ちゃんはテレビでも見てて」

「す、すみません・・・」


昌は鼻歌を歌いながらはりきって台所へ行った。

爽子は昌の背中を見ながら、昨夜の昌の告白を思い出した。


”光平のことがずっと好きなんだ”


いろいろな想いの中、私がいる。こうやってたくさん助けてもらっている。

爽子は胸をぎゅっと掴むと、込み上げてくる想いを噛みしめた。


「さっ早くごはん食べよっ!空港に行くんでしょ!迎えられなくなっちゃうよ」

「う、うんっありがとう・・・」

「爽子ちゃんが空港にいたら風早びっくりするんじゃない」

「うん・・・。とにかく早く会いたくて・・・」

「そうだよね。何か月会ってないんだっけ??」

「えと・・・約2ヶ月かな・・・」

「遠距離だったら、そんなことあるよね」


昌は自分の言ったことにうんうんと頷きながら食べていた。


「でも・・・こんな想いで風早くんを感じられなくて過ごした2ヶ月は初めて・・・・」


爽子の言葉に昌は箸を止めた。


「・・・そうだよね。うん・・・精一杯想いを伝えておいでよ」

「う、うん・・・・本当にありがとう」

「ははっもう聞き飽きたって。ほらっさっ早く!あっそうだ。私これでもアパレル関係の仕事

 してるかららさ〜オシャレには自信あるんだ!久々の恋人との再会にかわいくしてあげる。」

「ええ??」

「ほらっ、まずは食べて」

「う、うんっ」


* * *



「ほらっできた!!かわいい〜〜〜〜!!」

「うわっ・・・あ、ありがとう」


昌は爽子にお化粧とヘアセットをした。真っすぐな髪にカールがかけられ、横の髪をくる

っと巻き、ピンクの髪飾りで留めた。


「あ・・あの、この髪飾り、借りてていいのかな・・・?」

「ああ、いいよ。あげる。これ店でもらったもので私に似合わないから。色の白い爽子ちゃん

 に似合うよ」

「ええ〜〜〜〜そんなのだめだよっ・・・恐れ多い・・・っ」

「ははっ堅いんだから。いいからもらってよ。私の懺悔の気持ちだったりして・・・」


語尾が小さくなった昌に”え?”と爽子は聞き返したが、昌は何もないと誤魔化した。


「でも・・・・本当にいいのかな」

「お願い。風早、きっとかわいいって言うよ」

「・・・ありがとう」


爽子は初めての風早との二年参りを思い出していた。そして大切な友人、あやねと千鶴の

ことを。そして昌の気持ちを素直に受けようと思った。好意をもらうことが大切だと教えてくれ

たのは風早だ。


昌は頬を染めて恋人との再会に胸を踊らす爽子を穏やかな顔で眺めた。そして光平を思い

浮かべた。


光平はあれからどうしてるんだろうか・・・。


初めて本気の恋をした光平。中学から見てきた光平の初めての顔を見た。そんな顔をさせた

のは自分ではなかった。そんな光平の姿に動揺したのは事実だ。でも結局見守ることしかで

きなかった。それも自分なのだ。

今度はどんな顔の光平に会えるのだろう。でも私は変わらない。これからもずっと同じ想い

で光平を見ていく。そして、光平が困った時の助けになりたい・・・。

光平が・・・好きだから。


昌は笑顔で爽子を送り出すと、青い空を見上げて大きく伸びをした。



終結を迎える恋、真っすぐな想い、見守る想い。向き合う想い・・・それぞれが一歩前に踏

み出せた頃、仙台は冬を迎える準備をしていた。



**********



はぁ、はぁ、はぁっ


”「朝一番の飛行機で行くから・・・会いたい!」”


爽子は空港にたどり着いた。時間はまだあるのにどうしても気が急いて走ってしまう。

走り出しそうな想い。

今にも心臓は潰れそうなほど早鐘を鳴らしている。


「ど・・・どうしよう」


じっとしていられない。不安と興奮で逃げだしそうになる。身体の震えが止まらない。


「−あの、すみません」

「?」


その時、男二人組が爽子に声をかけた。爽子は驚いたように振り向く。


「この辺にお茶とかできるとこあるか知ってますか?」

「あ・・・えっと、確かこの先に・・・」


爽子が指さすと、男たちはその方向を見ずに爽子を見てにっこりとした。


「きれいな髪だね」

「え・・・?」

「ね?誰待ってんの?一人?」

「えっと・・・」


爽子は困惑した顔でおろおろとした。必死で前の男たちの意図を探ろうとするが分からない。

段々と爽子の顔が強張ってきた。


「荷物ないとこ見たら誰か待ってるの??」

「あのっ・・・」

「かわいい格好してさ・・・まさか彼氏?」


(彼氏・・・って言っていいのかな・・)


「まっとりあえずお茶でもしない?」

「で・・・でもっ」


頭の中で色々考えているうちに、男一人に強引に引っ張られる。やっと危機を察知した爽子

は必死で身体に力を込めた。でも前に引っ張られる力の方が強く、前のめりになったその時、

背後から爽子のもう一つの手がぐいっと引っ張られた。


「だめ・・・行かせない」


(え・・・・?)


爽子は手首を見つめた。その手は懐かしい手。その感覚に酔いしれる。爽子の身体が段々と

震えてくる。すぐには後ろを振り向けなかった。


「なんだよっ・・・いきなり」

「その彼氏・・・だからっあんた達が言う。彼女に触れられるの俺だけ」

「!!」

「彼女に触れるなよ」

「ちっ・・・何だよっ彼氏持ちかよ・・・そう言ってくれたらいいのに。いこっ」


男たちは気まずそうに顔を合わせると、そそくさと去って行った。


爽子は呆気に取られて男たちを見送ると、震える身体をそっと後ろに向ける。見ないでも

分かる。その声、その手・・・・。


「か・・・・ぜはやくん」


そこには照れた様子で手で顔を覆い、立っている風早の姿があった。それは彼の照れた時の癖。

風早ははっとしたように爽子の手を離した。


「ご・・・めん。彼氏・・・って言っちゃって・・・もうっ我慢できなくて」


そう言って、風早は男二人組の後ろ姿を睨んだ。


「え??」

「そんなこという権利・・・俺にないのにな。」


爽子はぎゅっと拳を握りしめて、意を決したように顔を上げた。


「わ・・・私、風早くんに伝えたいことがあって・・・」

「うん・・・俺も。空港に来てくれたんだね。ありがとう。でも仙台空港ってさ・・・俺、トラウマに

 なりそう。何でこうなるんだろう・・・」

「??」

「あっ・・・でも、来てくれて嬉しいっ!!」


色々表情が変わる風早を爽子はぼーっと見つめていた。そして、とびっきりの笑顔を見ると、

胸がきゅーっとなった。

最後に会った風早とは別人のようだった。

爽子は変わらない風早の笑顔を見て、今までの苦しかったすべての想いが溶けていくよう

に思った。一瞬で気持ちを変えるほど風早の笑顔は効力を持っていた。


「け・・・権利あります////」

「え?」

「ご・・ごめんなさい。今まで本当にごめんなさい。私・・・・」

「・・・全部知っている。爽子が苦しんでいた原因」

「・・・・でもっ」

「違う・・・爽子は何も悪くないんだ・・・俺が・・・っ「―っと誰だ〜この荷物」」


その時、後ろの方で大きな声がして風早はハッとした。


「あっやべっ・・荷物ほっぽりだして来たんだった////すみませ〜〜〜んっ」


バタバタバタッ


爽子はそんな風早の後ろ姿をぼーっと眺めていた。そして空港を見渡す。あの悲しい思い

出が残る仙台空港。でもあの時があったからこそ、風早に再び会えたことに感謝せずには

いられない。


”今、側に風早くんがいる・・・・。”


爽子は感情が込み上げてくるのを感じた。


風早が急いで戻ってくると、必死で涙をこらえている爽子の姿があった。


「爽子・・・」

「うっ・・・ごめっ・・・」

「ちょ・・・まじやばいから。俺・・・もうっ・・・」


風早はたまらず爽子を抱きしめた。そして優しい香りと懐かしい感覚に目を閉じた。すべ

てが夢のような感覚だった。そしてずっと欲して止まなかった感覚が今、腕の中にある。

風早も堪え切れず涙を流した。


二人は無心で抱きしめ合った。初めて離れ離れになるあの日のように・・・。


すべてを語るのは後でいい。今はとにかく感じ合いたい。二人の想いは同じだった。













あとがき↓

やっと二人会えました。ウブコントいっぱいしたいもんですね。長かったから。このお話も終結
に向かっています。もっと詳しく書きたい部分も色々あるので、話が終わったら番外編で書こう
かな〜。それではまた遊びに来てください。

Half moon 88