「Half moon」(62)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

送別会後、沙穂は風早を呼び止めた。そして光平は蓮を待っていた。二人とも抱えている
行き場のない想いをなんとかしようと思っていた。

こちらはHalf moon          10 11 12 13 14 15 16 17  18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 37  38 39   40 41  42 43  44 45 46 47 48 49  50 51  52 53  54 55 56 57 58 59  60 61 の続きです。
それではどうぞ↓























*********



注文したコーヒーがくるまで、二人は沈黙のまま重い空気が流れていた。夜の喫茶店

は一人客がまばらに居るだけで、静かに流れるBGMだけが聞こえてくる。

沙穂は風早を直視できずに俯いたまま拳を握りしめていた。目の前の風早を見たいの

に顔を上げられない。


カタン


(・・・はっ!)


沙穂が音に反応して顔を上げると、そこには椅子を引いて頭を下げている風早の姿が

あった。


「・・・ほんとごめん。謝ることしかできなくてごめん・・・」

「・・・・・」


沙穂はそんな風早を哀しい目で見つめた。


あの夏の日以来、風早と沙穂が二人で会うのは初めてだった。ずっと会いたかったが

勇気が出なかったのだ。あの日の風早の顔が忘れられない。



あの朝、目覚めた風早は信じられないという顔で部屋を見渡した。当然の反応だった。


”『・・・・俺・・・・その・・・?』

 『昨日泊まったのよ。風早飲みすぎちゃって・・・。覚えてる?』

 『・・・・・』”


そのまま彼は頭を抱え込んでしまった。そして最後に言った言葉。


”『・・・ごめん』”


そのごめんは彼女がいるのに浮気してしまった自分に対してのごめん?それとも私を

受け入れられないのごめん・・・?

でも私は思っていた。こんなことがあった以上、自分に興味が向けられるだろうと。

もう仲間の一人という関係ではなくなったのだから。でも、完全に風早の目は私を

拒絶していた。近づこうとすればするほど離れていくような気がした。こんなことが

あっても私は関係ない人間なの?


どうして私じゃだめなの?・・・・どうして愛してくれないの?


心の中の叫びはどんどん大きくなっている。


「・・・・風早、顔上げて」

「・・・・・」


沙穂は、目の前で頭を上げない風早を哀しい目で見つめた。


”この人はこうやって謝りつづけるんだ。”


そう思うと、たまならくなり、沙穂はぎゅっと唇を噛んだ。


「悪いと思うなら・・・・また会ってくれる?」


しばらくの沈黙の後、風早の肩がびくっと上がったが、顔を上げるということはなかった。


「やだ・・・風早・・・顔上げてよ」


それでも顔を上げない風早に、沙穂は辛くなり、そっと手を伸ばし風早の身体を起こした。

風早の目は虚ろだった。

あの時・・・自分が守ってあげたいと思った。こんな気持ち初めてだった。相手がいると

かいないとか、卑怯なことだとか何も思わなかった。ただ、目の前の彼と触れ合いた

かった。好きだから・・・。


「風早・・・風早のこと好きなのっ!!ずっと・・・会った時から」


風早は沙穂のいきなりの告白に驚いたように目を見開いた。そして更につらいという

ような表情をした風早に沙穂は泣き崩れた。


「・・・ぐすっ・・・うっ」


泣いてなかなかその続きが出てこない沙穂を風早は何も言わず見守った。


「彼女が・・・ぐっ・・・彼女がいるのが分かった時、すごくショックだった。

 でも、止めることができなくて・・・・」

「・・・・・・」


沙穂はそのまま俯いていてハンカチで涙を拭うと、しばらくの間黙り込んだ。そして蚊

のなくような声でぼそっと言った。


「あの夜のこと・・・爽子ちゃんに言ったよ」

「!」


風早は沙穂の言葉に顔を上げた。沙穂は風早の心を読み取ろうとじっと見つめる。沙穂

は自分がどんどん嫌な女になっていることに気づいていたが、もう止められなかった。

とにかく壊したかった。二人を。


すると風早は哀しい目をして、無理に笑った。まるで自分が滑稽だという風に。


「事実だから・・・」


沙穂はぐっと拳を握りしめた。


「なんでっ!!なんで・・・そんなに彼女がいいの?」


風早は沙穂に聞かれ、切ない目をして窓に視線を移した。空にはきれいな月が浮かん

でいた。


「ごめん・・・彼女しか好きになれない・・・たとえ・・・」


風早は次の言葉を飲み込むと、ふっと苦笑いをして立ち上がった。


「ほんとに・・・悪かった」


カランッ


風早はそう言って、お金を机に置くと去って行った。


後に残された沙穂は、気持ちを伝えた後もすっきりしない想いが残った。

彼を家に泊めたとき、こんな幸せがあるのかと思った。風早の横で眠るだけで幸せだった。

こうなるのをずっと夢見ていたのだから。彼女の携帯の待ち受けを見た時からずっと・・・・。

人の気持ちの前に自分を大事にして何が悪い?だけど・・・・。


沙穂は複雑な気持ちを抱えながら、去っていく風早の背中を悲しそうに見つめた。




***********



沙穂と風早とは別に蓮と光平も違う店に入っていた。


「・・・・何だよ。話あんだろ?」


店に入ってから何も喋らない光平に蓮は声を掛けた。そしてふっと笑う。


「え・・・?」


思わず光平は不思議そうに蓮に目を向けた。


「いや・・・そんなに避けることないじゃん。」

「えっ・・・別に避けてないけど・・・」

「じゃ、普通にしたら?」


真っ直ぐ目を合わせられない光平に蓮はストレートに言った。言葉を取り繕うとかやんわり

言うとかそんなことはできない男だ。


病院で会って以来、蓮と光平の間には小さな角質が出来ていた。光平がそれに苦しんで

いることを蓮は分かっていた。でも本音をぶつけてこないところを見ると、それでも自分を

通したいのだという主張のようにも思えた。それは以前の光平には見られなかったところだ。


「・・・このまま行くつもりなのかよ?」

「・・・・・」


蓮の真っ直ぐな瞳に光平は少し怯んだ後、ポツリと言った。


「・・・このままにしたくなかったからここに居るんだよ」


光平は苦しそうな表情を下に向け呟くように言った。蓮は光平に切なそうな目を向けた。

そして、コーヒーを一口飲んだ後言った。


「・・・・初めてだな」

「え・・・?」


光平が不思議そうに顔を上げると、蓮が優しく微笑んでいた。


「そこまで光平が本気見せてくんの」


光平は少しびくっとした表情をした。優しく微笑む蓮を見て光平はさっと目線を逸らした。

そして虚ろな瞳で言った。


「俺・・・諦めないから」

「・・・・・・」


蓮はそんな光平に鋭い視線を向けた。


「真っ直ぐ見ろよ。ちゃんと。好きなんだろ?」

「え?」


光平は驚いたように顔を上げた。


「・・・人を好きになるのに理屈や条件なんかないよ」

「蓮・・・・」

「何が正しいなんて判断もできない・・・」


蓮はせつない目をして言った。まるで自分に言い聞かせるように・・・。

光平はそんな蓮の表情をじっと見つめると蓮に向き合うように本心を語り出した。


「こ・・んなに人を好きになったのは初めてなんだ。自分でもずっと分かってた。

 止めなきゃいけないって・・・分かってたんだよっ」


光平は堪えるように顔を歪めていく。


「でもっ・・・・もう止められない。・・彼女が・・・黒沼さんが・・・好きなんだ」


蓮はしばらくの間、つらそうな光平を見つめると、がたんっと椅子を引いた。


「悪りーな。俺は何も言えない。ただ・・・」

「ただ・・・?」

「ちゃんと真っ直ぐ見れる恋愛しろよ」

「・・・・・・」


光平は俯いた顔を上げられないまま、拳をぎゅっと握りしめて座っていた。










あとがき↓

まだまだ修羅場続きます・・・。ラブラブは一体いつやってくるのでしょう!?まだまだ長い
のでどうぞお気軽に〜〜。それではまた続きを見に来てください♪

Half moon 63