「Half moon」(69)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

会社の先輩の奥さんの死をきっかけにやっと自分を見つめだした風早。今まで避けていた
蓮とも向かい合おうとする。しかし蓮が知った驚きの事実とは??風早の心情からです。

こちらはHalf moon          10 11 12 13 14 15 16 17  18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 37  38 39   40 41  42 43  44 45 46 47 48 49  50 51  52 53  54 55 56 57 58 59  60 61 62 63 64 65 66 67 68 の続きです。
それではどうぞ↓



























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爽子とあんな別れ方をしたあの日から俺の心はずっと欠けている月のようだった。

生きている感覚さえもない俺は答えを見つけ出すこともできず、ずっと半分のまんま、

止まない心の雨は降り続いていた。


この時改めて思った。月は欠けても元のまん丸に戻るけど、人の心は戻らないということ

を。考えたら分かることなのに、改めて考えるとまるで時間が止まったように何も考えら

れなくなった。


そして、時々目が覚めたようにハッとするんだ。君がいない昨日の続きの今日に・・・。

君はもういない。側にはいない。





1週間前――



がむしゃらに仕事をして全てを忘れようとしていた。1ヶ月経ってやっと俺は彼女が感じ

られない現実に言いようのない孤独感や悲哀な気持ちを感じた。取り返しのつかない

ところまでいってしまっていたことに気づいた。でも、心のどこかでまだ信じていたのか

もしれない。自分のしたことの重さを感じながらも、そんな簡単に壊れる関係ではないと・・・。


ある夜だった。俺は喪失感で押しつぶされそうになっていた。そして、気がついたら携帯の

ボタンを押していた。

ただ声が聞きたかった。一言でもいいんだ。例え許してくれなくても・・・。

自分の手の感覚だとは思えないほど緊張感で震えていた。


プルルル〜〜プルルル〜


あまりのプレッシャーでコールが鳴る度に携帯を閉じてしまおうかと思った。コールが鳴る

たびに心臓が飛び出しそうになった。その時間がやたらと長く感じた。


ピッ


「!」



6回でコールが消えた。俺は思わずごくっと唾を飲み込んだ。


ゴクッ


そして、沈黙の電話口にやっとの思いで声を発した。声が震えた。


「も・・・もしもし」

『・・・風早くん・・』

「・・・・・」


ああ・・・・・。俺は天井を見上げると、静かに瞼を閉じた。


声を聞くだけでよかった。やっと分かった。こんなに枯渇していたことを。声を聞いてやっと

現実に戻ったように生きている感覚が蘇る。そして、やっと涙が出た。泣くことさえも出来

なかったことに気づいた。喉の奥が焼け付くみたいに痛い。


ううっ・・・・。苦しすぎて声も出ない。こんなに求めていたのに、どうして・・・俺は


「・・・ご・・・っごめんっ」


こういうのが俺の精一杯だった。涙が出ると上手く喋れないって本当なんだ。最近泣い

たことなんかなかったから忘れていた。俺は泣き声を聞かせたくなくて、必死で堪えた。

そして携帯を遠ざける。言いたいことの10分の1も言えてない。でも・・・・上手く喋れ

ないんだ。


『・・・・うん。』


彼女の声を聞くだけで胸に広がる温かい気持ち。ずっとずっと求めていた。

どうやっても彼女がいない毎日を過ごすことはできないのだから、素直に思っている

ことを伝えるしかないのだ。例え拒否されようとも・・・俺には彼女しかいないのだから。

そして自分の気持ちを正直に伝えようと思った時・・・



 「あっ・・・あのっ「―めん・・・」」

 「・・・・え?」


どくんっ


(今・・・何って言った?)



”『今まで・・・ごめんね・・・別れよう』”


ピッ ツーツーツー


全ての時間が止まったかのように動けなくなった。ただ切られた電話の音だけを無意識で

聞いていた。

その時、初めて分かったんだ。かけがえのない人を傷つけてしまったことを。そしてそれが

どれだけ重いことだったのかを・・・・。



俺はこれからもずっと半分のまんま。止まない雨は降り続くのだろう・・・・。




************



風早は話し終えると、瞑っていた目をそっと開いた。


「・・・うそだろ?」


蓮は話を聞き終えると、時間が止まったように驚いて風早を見ていた。そして独り言の

ように言った。そんな蓮の姿に風早は寂しそうな笑みを浮かべた。


「・・・笑えるよな。あれで目が覚めるなんて」

「・・・・・」

「・・・よく考えたら当たり前だよな。他の女の子と一晩共にしたんだからさ。許される

 はずなんかなかったのに・・・・」


心のどこかでそんなわけないって思ってたのかもしれない。彼女なら許してくれるって。


「あっ・・・蓮にそのこと言ってなかったよな・・・」


風早がしまったという顔をしていると、蓮は表情を変えずに言った。


「知ってるよ。沙穂とのこと」

「!」

「あれは俺が悪いんだ・・・」

「・・・え?」


風早は驚いた顔で蓮を見た。蓮はお茶をひと含みすると冷静になって話し出した。


「沙穂はお前のことが好きだろ?だからあの夜、お前のこと探してたんだよ」

「・・・・・」

「俺が、翔太を探してるって言ったばかりに・・」


蓮が悔やんだ顔でそう言うと風早は静かに首を横に振った。


「・・・蓮は何も悪くない。そして秋山さんも。悪いのは全部俺だ」

「違うっ・・・違うんだ。そんなことになったのは・・・・」

「蓮・・・は悪くないよ」


拳を固めて真剣な表情を向ける蓮に風早はふっと笑った。


「でも、爽子から・・・別れを切り出されて、心のどこかでほっとしてるんだ」

「・・・・・」

「やっと安心できるような気がして・・・俺、普通じゃなかったと思う。あの時・・・ははっ不思議

 だよな。ずっと恐れていたことが現実になった時、人って意外にも安心するんだな・・・」


蓮はそんな風早の言葉につらい表情をして言った。


「・・・・それでいいのか?」

「・・・良くない」


彼女から別れを切り出されて、風早が立ち直れるとは思えなかった蓮は風早の言葉に耳を

疑うかのように顔を上げた。


「え・・・?」


風早は真っ直ぐ蓮を見ていた。蓮は興奮気味にごくっと喉を鳴らした。


(あの目だ・・・・!!)


蓮はあの時の爽子の目を思い出した。

信じて疑わない一直線の光を感じる目。


「俺、海部さんの奥さんのお通夜に行って・・・思ったんだ。まだ何もやってない。何も

 伝えてないって。爽子はちゃんといるのに。例え・・・心が離れてしまったとしても」

「・・・翔太」


蓮の顔には自然に笑みが浮かんでいた。そして込み上げてくる想いを必死で堪えた。蓮は

ずっと信じていた。いつか風早自身が立ち上がることを。


「やっぱ・・・翔太だ。」

「・・・・ごめん。俺、秋山さんのこともあって・・ずっと蓮を避けてた」

「ごめんはこっちだから・・・。翔太これからちょっと時間あるか?」

「え?・・・うん」

「一緒に来て欲しいところがあるんだ」


蓮はそれ以上何も言わずに玄関に向かった。そして風早もまた何も言わず蓮の後について

行った。二人の間にいつしかできた壁が少しずつなくなり始めていた。













あとがき↓

このお話を考えた時に、この場面がありました。なので蓮のことでいろいろ意見をいただき
まして、悩みました。最後の反省会でも反省しようと思ってます。でも最初に考えたのは、
一つに風早自身が自分で立ち直ることが一つ、そのきっかけの一つに蓮と考えてました。
まぁ、二次妄想でしかないですからね。結局この程度なんですけど。設定として、蓮は風早
自身が自分で立ち直ることを望んでいたというか信じていたんですが、それは蓮の逃げと言
うことになりますかね〜。とりあえず最後まで自分の考えていたストーリーを書こうかとは
思っています。「げっ」と言われそうですが(汗)物語として楽しんでもらえたら幸いです。
いつもありがとうございます。

Half moon 70