「Half moon」(59)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

9月のある日、昌は沙穂をランチに誘った。そして沙穂から語られた事実に愕然とする。
その事実とは・・・?

こちらはHalf moon          10 11 12 13 14 15 16 17  18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 37  38 39  40 41  42 43  44 45 46 47 48 49  50 51  52 53  54 55 56 57 58 の続きです。
それではどうぞ↓

























あれからどのぐらいの時間が経過したのだろう。外の音楽も全く耳に入らなかった。

昌は言葉を発することもできずに固まってしまった。まさか、そんなことが起こって

いるとは、まさか沙穂がそんなことができるとは、理解するのに時間が要した。


「・・・・それ、マジなの?」

「・・・・・」


沙穂は風早を捜しまわった夜、一緒に飲んだ。そしてアルコールの許容量を超えて眠

ってしまった風早を家に連れて帰ったというのだ。

相変わらず沙穂は昌の目を見れずに俯いたままだった。


「あんた・・・まさか」


昌の真剣な表情と深刻な口調に、沙穂はちらっと昌を見ると少し怯んだ目をして視線

を逸らした。


「・・・・してないよ」


昌は明らかにほっとした表情を浮かべた。


「したかったよ。正直そのつもりだったし・・・でもっ」


沙穂は俯いたまま、涙声になって呟くように言った。


「・・・でも?」

「・・・・・・風早がっ」


沙穂はたまらないという表情で唇を噛むと、堪えていた涙が溢れ出した。


「風早がっ・・・寝言で彼女の名前ばかり・・・ひっく、呼ぶんだもんっ・・・」


沙穂はそう言うとうわぁ〜〜〜〜んっと伏せて大きな声で泣き始めた。


「・・・・・」


昌は驚いた。この沙穂がそんな大胆なことをすることが信じられなかった。今まで見た

ことのない沙穂の姿に”女”を感じた。沙穂をそれほどまでに変えた”恋”


「・・・それで・・・どうしたの?」

「どうもしないよっ・・・」

「どうもしないって、風早は?」


昌の問いに沙穂はしばらくの間を置いて言った。


「・・・・・謝ってた」


昌はものすごく嫌な予感がした。風早は眠っていたはずだ。だとしたら・・・・。


「もしかして・・・あんた、何も言ってないの?風早に」

「・・・・・」


何も言い返さない沙穂を昌は睨んだ。そして勢いのまま立ち上がった。


がたんっ


「それって最低じゃん!!」


すると、俯いていた沙穂は涙でぐしゃぐしゃになった顔をぐっと上げ、昌を睨んだ。


「あ・・昌だってっ汚い感情とか持ったことないっていうの??本当にこれぽっちもないの??

 光平のこと好きなんでしょっ!!誰だって・・・本気で人を好きになったらっ・・・」

「・・・・」


昌は黙り込んでしまった。ないと言ったらウソになる。正直、彼女を見る光平の目を

見た時、彼女が羨ましいと思った。あんな目・・・見たことなかったから。自分を見る目

とは全く違った。認めたくなかった。それを知ったときの感情を。


「でも・・・それを思うのとやってしまうのでは話は違うよ」


昌は脱力するように、静かに椅子に座って俯いた。


「ぐすっ・・・うっ・・・だって、あんな風早見てらんなくて・・・・」


誰だって、人を好きになったら自分だけを見て欲しいと思う。誰だって・・・


「・・・それから風早には会ったの?」

「会ってないよ!!風早はきっと・・・いつでも会ってくれる。でもそれほど辛いことないよ。

 そこまで・・・私、悪女になれないよぉ・・うっ」


昌はそっと沙穂の肩に手を置いてせつない目で見つめた。


「私が言えることは、”風早を早く楽にしてあげて”ということだけだよ」

「・・・・・」


沙穂は何も返事をせずに虚ろな瞳を昌に向けていた。


* * * 


「じゃね・・」

「・・うん」


沙穂と昌は手を振って別れた。沙穂の背中が寂しかった。これ以上何も言えるわけ

もない。励ますこともできないのだ。


「う・・うぅ・・・っ」


帰り道、昌は涙が止まらなかった。人の想いは交差していく。皆幸せになりたい。そして

誰かを愛し愛されたい。できれば醜い自分の感情なんかに気付きたくない。正直、風早が

彼女と別れたら光平はどうするの・・・?なんて思ってしまう。そんな自分が嫌だ。

でも、そんなことより、沙穂の行動は許されるものじゃない。友達としてこれ以上、沙穂

を応援することはできない。いや・・・・違う。


「くっ・・・うう・・・」


心のどこかで羨ましい感情があることを、自分で認めたくないだけなのだ。人としてどう

とかそんなことばかり掲げている自分より沙穂は正直だ。関係を壊すのが怖くて、何もし

ていない自分より・・・・。沙穂を責める権利なんて自分にはないのかもしれない。


「もう・・・嫌だ!!」


昌はごしごしっと目を擦ると、空を見上げて叫んだ。



* * * * *



店には昌と蓮が向かい合っていた。昌は沙穂と別れた後、蓮を呼び出した。

昌が話し終えた後、二人に深刻な空気が流れた。


「・・・なんで、そんなことになったかは分からないよ」

「・・・俺のミスだ」

「は?」


蓮の言葉に昌は聞き返す声が裏返った。いつもは冷静な蓮の様子が明らかに違った。


「・・・・沙穂の気持ちは分かってたのに迂闊だった」

「え・・・?」


そう言って、蓮は頭を抱え込んだ。


蓮はあの夜のことを掻い摘んで話した。沙穂が爽子の携帯を拾ったと分かって電話を入

れた時、風早がいなくなったことを言ってしまったこと。


「そこまで・・・考えてなかった俺のミスだ」

「そんなっ・・・・それはないでしょ。普通考えらんないよ!!沙穂があんなことする

 なんて・・・マジ・・・驚いた」

「・・・・・」


蓮は考え込むように黙りこんだ。昌は急くように聞いた。


「それで・・・風早は?」

「・・・ちゃんと会ってない」


蓮はあれから会社で会う以外は私生活では会えていなかった。会社でもすれ違う程度で

目さえ合わさない風早は明らかに蓮に会うのを避けていた。会社での風早はいつも通り

に見えた。ただ蓮には全てを忘れるかのように仕事に打ち込んでいるように思えた。そ

んな風早を見ていて、仕事があって良かったと内心思ったほどだ。

あの日、蓮が空港から帰ってくると、風早はいなかった。爽子がいなくなった自宅に戻

ったのだ。何も話さないまま・・・。どんな思いであの家で過ごしているのか。


蓮はあの時の引っ掛かりを思い出した。風早に感じた引っ掛かりは沙穂だったのだ。

爽子が空港で最後に言った”「風早くんを傷つけるのは・・・・」”という言葉。



「・・・もしかして」


蓮は一点を見つめている目をぱっと上に向け、閃いたように言った。


「な・・・なに?」

「いや・・・・」


彼女は沙穂と風早のことを知ってるんじゃ・・・・?

蓮は考えれば考えるほど、あの時の爽子の様子と一致することに気づき、動揺した。

彼女なら風早が裏切ったとしたら自分の存在が風早を困らすと考えるように思った。

彼女のことをよく知らないのにそんな気がした。


「蓮・・・なんか顔色悪いよ?」

「・・・・・」


蓮はすべて分かった。二人を引き裂くものは今やあの誤解だけではないのだと。


「・・・風早、大丈夫かな・・・」

「・・・・・・」


蓮は昌をちらっと見ると考えこむように目線を下に向けた。

アイツの性格からして沙穂とのことがあった以上、彼女に向き合えるはずがなかった。


「でもさっ!!何の事実もないんだよっ。何もなかったんだよっ!」


昌はばんっと机を叩くと、懇願するように蓮に訴えた。


「でも・・・あいつは自分を許せない」


まるで自分のことのように悩んでいる蓮を見て、昌は少し口角を上げた。


「・・・蓮、何か変ったね」

「へ?」


いきなりの昌の発言に蓮は唖然という表情で昌を見た。


「こんなに人に一生懸命なところ・・・あんま見たことないよ」

「えっ・・・まぁ・・・」


蓮には珍しく照れてるように見えた。そんな蓮の様子に昌は少し優しい気持ちになった。

自分の中に醜い感情があることを認めないわけにはいかない。でも皆が幸せになって欲

しい。これも本心なのだと。風早も彼女も沙穂も。そして光平も・・・・。


「とにかく・・・翔太は今何を言ってもだめだからもう少し様子を見るよ。あいつ、

 結構頑固なんだよな・・・」

「うん・・・」


蓮はその後、昌をちらっと見て言った。


「あのさ、昌、さっきから言おうと思ってたんだけど・・・」

「何?」

「え・・・・」


昌は蓮の言葉に茫然とした。先ほど感じていた平穏な気持ちは消え去っていた。


”「光平の・・・・北海道帰り決まったらしい。」”


昌と蓮は同じ不安を心に浮かべてお互い言葉を交わさず見つめあった。















あとがき↓

当分と言ったけど、風早は次に出てきます。でも心理状態は後ね。ややこしいから(笑)
ああ・・・先が長い。終わったら寂しいけど、どうまとめようかとも悩んでしまいます。
まっ中途半端だけにはしないように頑張ります。それではラブってなくてよければまた
遊びに来てください。

Half moon 60