「Half moon」(58)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。
爽子は風早と会うことなく仙台から去ってしまった。光平は爽子に会えないまま想いだけを
募らせていく・・・。当分爽風出番ありませんっ(汗)

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の続きです。
それではどうぞ↓




















***********



(・・・10時か・・・・)


光平は壁の時計を見て小さなため息をついた。


彼女が仙台から帰ってしまった。空港まで行きたかった。でもアイツと二人でいるのを

普通に見れる自信はなかった。もう普通ではいられないんだ。

彼女は俺の気持ちに気づいているんだろうか?彼氏がいるから眼中にないんだろうか?

そして、あの時の俺の汚い下心に気づいてしまったのだろうか・・・。そんなことで壊れる

二人じゃないことぐらい蓮よりも俺が分かってる。だって彼女をずっと見ていたのだから。


「―田口、おいっ」

「は、はいっ!」


光平は上司に呼ばれてハッとしたように現実に戻った。そう、今は仕事中だった。


「ちょっと」


そう言って上司は光平を個室に手招きした。


「・・・はい」


(・・・やばい、怒られるっ・・・・)


光平は緊張気味に、部長の後について行った。


かちゃ


「―失礼します」

「まぁまぁ、座って」

「はい」


仕事中にぼーっとしていて、てっきり喝を入れられると思っていた光平の思いに反して、

部長はにやにやしながら光平を前の椅子に促した。


「なんか最近変じゃないか?」

「すっ・・・すみません、しっかりやります」

「もしかして、彼女が帰っちゃたからなのかな?」


(・・・え?)


どくんっ


いきなり今さっきまで考えていたことを見透かされたようで、俺の心臓は大きく脈打った。


「あ・・・い、いえ、彼女じゃ・・・「―まぁ、」」

「若いからね、それが原動力になるのはよく分かるからねぇ〜〜」


部長はいかにも物分りの良い上司振りをアピールするかのように馴れ馴れしく言った。


「あのっだから・・・」


俺は必死で否定しようとした。でも心のどこかで思ってる。本当に彼女だったらどんなに

いいか。何度願ったことだろう。彼女が他の誰のものでもないとしたら・・・こんなに苦しむ

ことはなかったのに。


「実はね・・・」

「え・・・・!?」


光平はその後、上司から出た言葉に目を大きく見開いた。



***********



――9月12日


仙台の街はジャズフェスティバルで賑わっていた。

爽子が北海道に帰って1ヶ月、仙台は夏の気配を消して、すっかり秋の準備を始めている。

イベントのために用意されたオープンカフェからはあちらこちらで演奏されているバンド

の様子がよく見えた。



昌は足でリズムを刻みながらも、ちらっちらと沙穂を盗み見る動作を先ほどから繰り返

していた。


「沙穂・・・食事来てるよ」

「えっ・・・」


沙穂は昌の言葉にはっとしたように目の前に食事が運ばれてきたことに気づいた。


この日、昌は久々に沙穂をランチに誘った。沙穂に会ったのは前回の飲み会後に号泣し

た時以来だ。最近、振られてばかりいた昌だったが、今回は珍しく昌の誘いに沙穂が乗

ってきた。しかし久々に誘いに乗ったはいいが、会った時から無口で虚ろな目をした沙穂

とどう接すれば良いか分からず、さすがの昌も困り果てていた。あれから何かあったのか

もしれない。しかし、本人が言い出さなければ何もできない。

あれから仲間での飲み会もなかった。そう、風早の彼女が北海道に帰ってから。


「・・・何かあった?」

「・・・・・・」


沙穂は何も言わなかった。それからも昌は楽しげな雰囲気を眺めながら、黙々と食事を

していた。内心、音楽があって良かったと思うほど、沙穂は無口だった。


(・・・・こんな状態でなんで会うかなっ??)


正直この状態にうんざりしていた昌は、これ以上沙穂に不信感を抱きたくないので、さっさ

と切り上げることにした。


「さっ・・そろそろ帰ろっか!」


沙穂が何とか食事を終えたのを見ると、重々しい雰囲気を断ち切るように昌は立ち上がった。

そして沙穂を気にせず、上着などを着て帰る準備をしていると、目の前の沙穂がまだ

俯いたまま座っていた。


「・・・沙穂、また日を改めよう。調子悪いんでしょ」

「・・・・」


(・・・まただんまりだよっ)


昌は沙穂に気を遣うのがしんどくなった。財布からお金を出すと、沙穂の前に置いた。


「ごめん、今日は帰るわ。んじゃねっ!」


何か言いたいことがあれば言えばいいのに。そのために久々に会うことを決めたのだろ

うから。沙穂は昔からそうだった。いかにも傷ついています!と相手に思わすことが多か

った。それは無意識でやっているのか意識的にやっているのか分からない。


(でも、マジ時々疲れるんだよね・・・)


昌が沙穂の返事を待たずに背中を向けた時、蚊の鳴くような声が背後から聞こえた。


「私・・・間違っていた・・・かな・・・」

「!」


やっと言葉を発した沙穂は相変わらず俯いたまま顔を上げない。昌は呆気に取られたよう

に沙穂に目を向けると、ゆっくりと再び腰を下ろした。そして昌は、沙穂から語られる事実に

先ほどまで沙穂に対して感じていた感情を大きく覆される。


沙穂が今まで言い出せなかった理由をやっと理解することになるのである。














あとがき↓

お久しぶりに再開します。長い続きもんです。初めての方は訳わからんですね。最初
から読むのも大変だしねっ(汗)それでは当分頑張って更新できたらと思っています。
あえて、爽風の心理描写は避けています。それは後ほど。出番がなくてすみません。 


いつも拍手やコメントをありがとうございます。コメントを頂いた方は、書いて頂いた日
にコメレスしていますので、よければ読んでください。
 

Half moon 59