「Half moon」(57)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。
風早と会えないまま爽子は傷心のまま北海道に帰る。
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の続きです。
それではどうぞ↓




















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二人の想いは交差したまま、悲しい別れとなった。爽子は飛行場をぐるっと見渡す。

10日前、ここに着いた時にはこんな気持ちで帰る自分は想像しなかった。爽子は

到着を待っていてくれる風早の姿を思い浮かべた。


色々な彼の表情を知っている。怒った顔、照れた顔、真面目な顔、悲しい顔、そして・・・・

満面の笑顔。いつも満面の笑顔で自分を迎えてくれた。


その笑顔を思い出すと自然に爽子の頬を涙がつたう。

爽子は時計を見上げると、出発ゲートに向かって歩き出した。


「ー待って!」


その時、人混みの中で一際聞こえた大きな声に爽子は振り返った。


「あ・・・・・」


そこには汗だくになって荒い息を整えている蓮の姿があった。

爽子はしばらくびっくりしたように蓮を見ると、ぱぁぁと嬉しそうな顔になった。


「蓮・・・さん」


風早くんを通して出会った人。世の中なんていい人が多いのだろうと思う。


「はぁっはぁっ・・・間に合った。」

「き、来てくれたの・・・?」


爽子は側に寄って、そっとハンカチを差し出した。


「さんきゅ。」


蓮はハンカチを受け取ると、顔一杯の汗を拭き取った。そして頭を下げて言った。


「・・・ごめん、翔太、連れてこれなかった」

「え・・・あっ・・・そんな、顔上げてくださいっ!!」


爽子が焦ったように言うと、蓮はゆっくり顔を上げて爽子を見つめた。


「・・・いろいろ、ありがとうございます」

「?」


蓮は以前会った時の爽子とは違う雰囲気の爽子を感じ取った。


「もしかして・・・何かあった?」

「・・・・」


真剣な蓮の目を爽子はじっと見ていた。二人の間には言葉にできない思いが交差していた。

そして、爽子は目線を下に落として、重い口を開いた。


「私のこと・・・・好きじゃなくなったみたい・・・です」

「え??」


蓮は爽子から電話の様子を聞いた。あの時の電話だ。


「会えないって・・・・アイツ。でもまだ何も話してないだろ??」

「うん・・・でも、もう・・・今は・・・」

「・・・・・」


爽子の目にあの時の輝きはなかった。絶対揺らぐことのない瞳。


「・・・翔太、実は俺のところにいるんだ」


それを聞いて爽子は少し驚いた様子を見せると、穏やかな顔で微笑んだ。


「よかった・・・。蓮さんのところにいるならよかったです。安心しました。」

「・・・無理やりでも連れて来ようかと思ったけど、まるで廃人みたいで」


爽子は胸がズキンッと痛んだ。風早を傷つけたのは自分だ。彼に対して誠実ではなかった

のだから。あれからずっと考えていた。本当に自分がしたことは正しかったのだろうか?

どうすれば良かったのかと・・・。でもいまさらどうにもできないことに気づいていた。


爽子は沙穂のことが頭に浮かぶと、胸の強い痛みを感じた。そして激しくなる動悸。


「・・・大丈夫?」


蓮が心配そうに見ていることに気づいた爽子は、ハッとしたように現実に戻った。


「す、すみませんっ!あの・・・もう時間なので・・・本当にありがとっ・・・「―頼む!!」」

「え・・・?」


その時、再び頭を下げる蓮の姿に爽子は動きが止まった。


「諦めないで欲しい」

「・・・・・・」

「アイツには・・・あんたしかいないんだから」


爽子はそんな蓮の姿を驚いた目で見た後、ふっと優しい、また切ない表情をして言った。


「・・・私は・・・風早くんしか・・いません」

「!」


蓮はばっと顔を上げ、ほっとした表情を浮かべた。しかし、次の爽子の言葉で、爽子の中で

何かが崩れていると感じ、危機感を覚えた。


「でも・・・風早くんをこれ以上傷つけるのは嫌なんです・・・」

「・・・・?」


意味が分からなかった。そして、何か引っかかった。


(何だっけ・・・この感覚最近も感じた・・・)


「あっ・・・それじゃ」


その時、蓮はその引っ掛かりを思い出せなかった。ただ、二人の間には思っていたより

深刻なヒビが入っていることが分かった。それはすぐには修復できないほど・・・・。


蓮はゲートに入っていく爽子にもう一度声を掛けた。


「―絶対また帰ってきて。仙台に」

「!」

「待ってるから・・・」


蓮の消えそうな声に、爽子は軽くするとゲートの奥に入って行った。表情は見えなかった。


「待ってる・・・」


蓮は独り言のように呟くと、爽子のいなくなったゲートをせつなそうに見つめた。




<つづく>









あとがき↓

ここでちょっと一回切ります。また「行き詰ってるから」と言われそうですけどね(笑)
まぁ、それはそれで。次回はこのお話のちょっとした短い番外編を載せようと思ってます。
まだ終わってないんですが、途中書きたい部分を入れられなかったので。実はそういうの
が色々あったりして。楽しんでもらえたら嬉しいです。それではまた遊びに来てください♪

※ 前回コメ頂いた方に、コメ欄にレスを書いてありますので、よければご覧になってください。

Half moon 58