「Half moon」(55)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。
風早を捜している爽子。いったい風早はどこに・・・??
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それではどうぞ↓






















*********



爽子との電話を切った後、光平はじっと携帯を持ったまま動かなかった。


「・・・はぁ」


幾度となく、昨日の出来事を思い出してはため息をついていた。


(あれから彼女はどうしたんだろうか・・・・)


電話口に出た風早の様子は明らかに変だった。自分がもし風早だったら彼女が違う男の

携帯で電話してきたら気にするだろう。もう、認めなくてはならない。心のどこかでそれを

望んでいたことを。

でも・・・結局、彼女は今も風早といる。明日帰る彼女と会うこともできない。何もできない。

ずっと頭から離れない彼女は風早のものだと・・・実感せざる得ない。


「・・・会いたい・・・」


光平は虚ろな瞳で携帯を見つめた後、ぎゅっと拳を握りしめた。



***********



蓮は病院から家に向かって帰っていた。アパート近くに差し掛かった頃、何気なくカバンに

手を突っ込み、鍵を探していた。その時、ドア付近に何か違和感を感じた蓮は、下に向けて

いた顔をさっと上げた。そして驚いたように叫んだ。


「・・・!翔太?」


蓮のアパートのドアの横で壁にもたれて立っていた風早は、蓮の声に反応して、ゆっくり

と顔を上げた


「!」


風早の顔を見て蓮は声を出せないまま、その場に佇んだ。


(あんな顔・・・初めて見た)


「・・・中、入れよ」

「・・・悪いな」


風早は憔悴しきって、やつれているように見えた。蓮は別人のような姿に内心驚きを隠せ

なかったが表面には出さず、部屋に招き入れた。


コポコポコポ


蓮は風早を中に入れると、コーヒーを準備し始めた。横目でちらっと視線を送る。

部屋の隅で身体を抱え込むように座る風早。


「・・・・・」

「・・・・・」


部屋に沈黙が走る。その空間はいつも二人が笑い合っている部屋の光景とはまるで違った。


「ほい」


蓮は風早に温かいコーヒーを渡した。


「外、暑いけど、今はホットがいいぞ」

「・・・・ん、さんきゅ」


二人の間に流れる沈黙。蓮はしばらく風早の様子を伺った。すると風早はコーヒーを一口、

口に含むと、俯いたまま言った。


「・・・悪い。ちょっとここに居させて」

「いつまで?」

「暫くの間・・・」

「夜には帰れよ」

「・・・・・・」


蓮がそう言うと、風早はまた無口になった。そして、すくっと立ちあがった。


「・・・悪かった。行くわ」

「え・・・?」


蓮は風早が向かおうとしたドアの前にバッと立ちはだかった。


「なんで向き合わねーんだよ!」


風早はしばらく間、蓮を見ていた。それはいつもの目ではなかった。明らかに敵対して

いるような目だ。蓮はそんな風早に目を逸らさず、真っ直ぐ見つめた。すると、風早は

ふっと苦笑いをした後、表情なく答えた。


「・・・・俺にはもうそんな資格ない」

「へ?」


それ以上、風早は何も言わなかった。

蓮は、そんな風早を中に入るように目で合図し、自分もベッドにどっかと座った。


刻々と時間は過ぎていく。家で待っている爽子のことを思うと胸が痛んだ。

何もすることが出来ない自分にジレンマを感じる。原因が自分にあると思っている蓮は

焦っていた。何度となく今までのことを話そうとしては言葉に詰まった。そして、ただ冷め

切ったコーヒーを味もなく口にしていた。


カチカチカチ


時間だけが過ぎていく。相変わらず風早は死んだように動かない。その時、沈黙を打ち破る

かのように風早の携帯が鳴った。蓮はびくっと反応して風早を見た。


「―翔太!電話」

「・・・・・・・」


風早は蓮の声に反応せず、俯いたまま携帯を取り出そうともしなかった。蓮は自分の中で

ぶちっと何かが切れたかのように立ち上がると、風早のかばんの中に手を突っ込んだ。

さすがの風早もがばっと顔を上げ、蓮を睨んだ。蓮は携帯を取り出すと、表示を確認した。


「翔太、出ろ!!」


表示の方を風早に見せると、有無言わず、通話ボタンを押して風早の耳に携帯を押し付けた。


「!」


風早は凍ったような目をして、恐る恐る携帯から聞こえる声に耳を傾けた。


『―風早くん??さ、爽子です・・・』

「・・・・・・」

『嬉しい・・・・ぐすっ・・出てくれて・・・』


電話口からは、涙声で上手く話せない様子の爽子の声が儚げに聞こえてくる。

風早は思わず目を瞑って爽子の声を聞いていた。蓮はその様子を横目で見ると、そっと

静かに部屋の外に出て行った。


「・・・爽子」

『う、うん・・・・っ』


風早は死んだような目で爽子の声を感じると、腕で顔を隠し身体を丸めた。それはまるで

自分の感情を外に出させないような仕草だった。


「・・・・ごめん、まだ会えないんだ」

『え・・・・』

「今はまだ・・・会いたくない」

『ど、どうして??』

「・・・・・・」

『私・・・まだ何も話せてなくて・・・っちゃん話したいの!!伝えたいことが・・・「−いい!」』

『え・・・?』

「・・・いい。話すことは何もないから」


沈黙した会話の中、次に爽子が発した言葉に風早は固まったように動けなくなった。


『・・・私のこと・・・嫌いになった・・・?』

「!」


風早はぎゅっと目を瞑って、強く手に力を込めると、無表情で言った。


「・・・それじゃ、切るね」

『えっ??かぜは――っ』 プーップーップーッ


パタンッ ガンッ


風早は携帯を放り投げると、一瞬切ない表情をした後、また顔を隠してその場にうずくまった。

強く握りしめた手の平は何本かの筋がくっきりついて、真っ赤になっている。

しばらくして買い物から帰ってきた蓮は、ドアの前で声がしないことを確認して部屋に入った。


かちゃっ


蓮の視界に入ったのは先ほどと変わらない風早の姿。


「翔太?・・・ちゃんと話したのか?」

「・・・・・・」

「翔太!」


強めの蓮の声に、風早がゆっくりと顔を上げた。その表情はさらに生気がないように見えた。


「・・・翔太?」

「俺・・・もうだめだ」

「・・・・・・」


翔太が恋焦がれるように大事にしていた恋人は透き通るように純粋な子だった。その恋人を

全身で好きな翔太に危機感を感じていた。あまりにも純粋すぎて、真っ直ぐすぎて、いつか

自滅するんじゃないかって。でもずっと・・・・羨ましかった。


「・・・翔太さ、今こんなこと言っても信じないだろうけど、俺、憧れてた。二人の関係に

 ・・・・翔太のひたむきさに」

「・・・・・・」


風早は蓮の言葉を一点を見つめながら微動一つせず聞いていた。


「だから・・・・だから「―俺もっ」」


蓮が言葉を続けようとしたら風早が遮るように言葉を発した。


「俺も・・・爽子に憧れてた。・・・ずっと。いつも純粋で真っ直ぐで人に優しくて。俺の

 ドロドロした嫉妬心とか、独占欲とか、全部受け止めてくれて・・・・。だからこそ会う

 ことが・・・できない」

「・・・翔太!まさか、このまま彼女と会わないつもりか?彼女のことを誤解してるなら・・・・!!」


蓮は爽子が隠していることを言ってしまおうと思った。しかし、その時の風早の目を見て

思わず、言葉を失った。それは狂気の瞳だった。


「・・・・・・」


蓮は思った。どうして翔太はここまで追い詰められているのか?原因は何なのかと・・・。


風早はちらっと蓮の言葉に反応するように視線を上げると、すぐに瞼を下ろして言った。


「・・・全部俺の中のドロドロした感情がそうさせたんだ。俺が爽子といる限り・・・。

 だから・・・・今は会えない」

「・・・・・・」


蓮はそれ以上何も言えなかった。今、風早の抱えている問題を暴いたところでどうなるもの

ではないと察したからだ。


(・・・間に合わなかった)


大きくため息をつくと、ベッドに横になって天井を眺めた後、そっと窓に目を向けた。

すっかり日は更けて、夜空には昨日と同じく月が輝いていた。何も出来ない自分にただ、

ため息しか出なかった。彼女はどんな夜を過ごしているのだろう。蓮は爽子のことを思

い、胸を痛めた。


明けない夜はない。そう信じるしかなかった。









あとがき↓

風早と爽子はずっとラブラブでもダメなような気がするんです。色々なことがあってお互い
を信じられ、深い絆になっていくのだろうと。二次で補完!なんちゃって。でも爽子ちゃん
をまた悲しませてごめんなさい(泣)それではまた遊びに来てくださいませ♪

Half moon 56