「Half moon」(44)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

光平と爽子に事情を知られた沙穂は・・・・?ちと短いです。
こちらはHalf moon         10 11 12 13 14 15 16 17  18  19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 37  38 39 40 41  42 43 の続きです。
それではどうぞ↓





















あれから沙穂は複雑な思いを抱えていた。恋敵である爽子に身の上を知られたこと。

爽子という人間をよく知らない。口止めはしたが、風早に伝わってるかもしれない。

そして、まさか光平に偶然会うなんて。


あの事故以来、何も言わない私と光平達の間には微妙な空気が流れていた。でもその

空気もいつしかなくなり、皆何も変わらず接してくれた。誰も触れて欲しくなかった。母の

ことがあったから・・・・。だから言えないんだと言い聞かせてる自分がいた。


PiPiPi〜♪


道を歩いていた沙穂の携帯が鳴った。取り出した携帯の表示は母だった。


「−お母さん?どうしたの?」


「―――え!?」



* * * * * *



「・・・・ごめんね。突然」

「い、いえ」


沙穂は爽子を呼び出していた。そして二人で美穂の病院に向かっていた。


「大丈夫だったの?今」

「うん・・・風早くんが緊急のお仕事が一つ入って夕方までいなくて・・・」

「・・・・そう。忙しいね」


道を歩いていた沙穂に病院で美穂に付添っている母から電話があった。美穂がまた脱走

しようとしたそうだ。そしてどこかへ行こうとした理由を聞くと爽子に会いに行こうとしていた

ということ。困った母は沙穂に連絡したというわけだ。

沙穂は躊躇したが、光平に爽子のメルアドを聞いた。爽子と連絡が取れた沙穂は驚いた。

まさかすぐに来てくれるとは思っていなかったのだ。そして、こんな形で恋敵と関わりを持つ

ことになるとは夢にも思わなかった。


「う・・嬉しいから」

「え?」


歩きながら爽子の言葉に、沙穂は驚いた表情をして目を向けた。


「秋山さんが・・・・呼び出してくれて」

「・・・・なんで?」

「何か・・・お役に立てたら嬉しいので」

「ふぅ〜〜ん」


頬を赤くして言う爽子からは嘘は感じられなかったが、そんな偽善者のような言葉に沙穂は

胸中うんざりしていた。爽子のことを良く思えない沙穂にとって、爽子のすることは全て風早

の点数稼ぎにしか捉えられていなかった。

横目で爽子をちらっと見る。白い肌に長い黒髪は綺麗けど、特に目立って綺麗なわけじゃない。

風早は彼女のどこが好きなんだろう。漠然と考える。風早ぐらいの人ならもっとレベルの高い

子が彼女でもおかしくないのに・・・。


* * * *


「あっ〜〜〜〜!!さわこちゃん!!」

「――えっ!?」


いきなり美穂に自分の名前を呼ばれた爽子は大きく目を見開いた。

美穂の病室は個室で、まるで幼い児童の部屋のようにかわいく飾られ、子どものおもちゃ

が置かれていた。まだ美穂の様態は安定せず、この間のように時々意識を失って昏睡状態

になることがあった。また記憶も小さい頃のまま止まったままだ。


「あ・・・ごめんなさいね。美穂があなたの名前を知りたがっていたから沙穂に教えて

 もらって・・・・。なんか、見ず知らずの方にわざわざ来てもらって・・・・・」


母が遠慮気味に言うと、爽子は手をぶんぶん振って、遠慮無用!!という感じで言った。


「い、いえ!私も美穂さんに会いたかったですから・・・」

「やったぁ〜〜〜あそぼっ!!さわこちゃんっ」


爽子はぱぁぁと明るい顔になり、美穂の側に寄って行った。美穂は素直な子供の笑顔で爽子

を迎えた。そして、自分のお気に入りのおもちゃを出し始めた。


爽子は小さい頃から初対面の人には怖がられることが多かった。しかし高校の時、上手く

感情を表すことのできない自分をそのまま受け入れてくれたのが風早だった。風早といると

自然に感情が表情に出ていることに気付いた。そして”そのままでいて”と言ってくれた。

今、目の前の美穂もそのままの自分を受け入れてくれている。爽子は嬉しかった。


高校時代から表面的には大きく変化し、人との付き合いも変わってきた爽子だが、自分の

中では何も変わっておらず、人間関係にはまだ自信が持てないでいた。その自分に鈍感な

ところが風早の常の心配ごとになっているのに気付きもせず・・・・。


「あの・・・黒沼さん。ごめんなさい。私これから用事があって・・・」


爽子と美穂が遊んでいる姿を虚ろな目で見ていた沙穂はさっと視線を背けた後、遠慮気味

に言った。爽子はそんな沙穂に”私、ちゃんと帰れますからどーぞ、どーぞ!”とジェスチャー

で訴えた。沙穂は一礼すると、美穂をちらっと見た後、部屋を出て行った。


かちゃっ


沙穂はドアを出ると、横の壁にもたれた。

沙穂は滅多に美穂に会いにいくことはなかった。美穂を見るとつらくなるのだ。あの笑顔が

苦しくなるのだ。何もなかったように微笑むあの天使のような笑顔が・・・・。


爽子を残して去ることに不安を感じてはいたが、沙穂はあの場に長時間いることがどうして

もできなかった。


(・・・・まいっか。どうせもうすぐ北海道に帰るんだし・・・)


沙穂はもう一度病室を見た後、足早に去って行った。しかし、このことが大きな事件に発展して

いくことをその時、沙穂はまだ知らなかった。









あとがき↓

沙穂の事情についてはまた、おいおいで。ところで密かに目次ページを整理して
みました。”そのままの私”という話を”爽子の悩みシリーズ”というのにしてみま
した。悩みシリーズのお話をまた書いてみたいなっと。シリーズを増やすのも楽
しいんですよね。それではまた遊びに来て下さい。

Half moon 45