「Half moon」(25)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。
仙台行きの準備を進める光平。思わぬところで爽子と二人きりになり・・・・。
こちらはHalf moon         10 11 12 13 14 15 16 17  18  19 20 21 22 23 24 の続きです。
それではどうぞ↓















仙台に出張(!?)が決まってから自分の心はすっかり仙台に向いていた。

着々と準備を進める。といっても特にないのだが。親にも知らせると、俺が

なんかやらかしたのか?と慌てられた。まぁ当然の反応。説明しても納得し

てもらえず・・・・。でも帰ってくることは嬉しいようだ。



「あれ?黒沼さん、残業?」


光平が外回りから帰って来ると、爽子だけが部署に残り、仕事をしていた。


「あ・・・うん」


光平はちらっと爽子が見ていた資料を盗み見た。


「あれ・・これ滝川(同じ部署の同僚)の仕事じゃなかったの??」

「あ・・・違うの、大丈夫」


爽子はぱっと資料を光平から隠した。光平はその姿を見て、ふぅーっと小さな

ため息をついた。


「あのさ、黒沼さん、これアイツのためになんないよ。黒沼さんは別に嫌じゃなく

 やってるのを知ってるけどさ」


この黒沼爽子という人は自分ができることを喜んでするところがある。それは押し

つけではなく、純粋に人の役に立ちたいのだと分かった。人としてすごいと思う。

男でも女でもなく、人間として憧れる。風早もそうだったのかなって・・・最近

そんなことを考えるようになった。そんなことを考えているとやっぱりまだ、彼女

固執しているのかもしれないけど。


「あのね、滝川さん・・・今日ね、彼女の誕生日なんだって」


そう言って爽子は嬉しそうに頬を染めて言った。


「ふぅ〜〜ん」


爽子の机にもたれかかり、光平は少し沈黙の後、ぼそっと恥ずかしそうに言った。


「俺も・・・実は今日、誕生日なんだよね」

「えっ?ええええええええ??ホント??」

「うん、ほんと」

「お、おめでとう!!」

「ありがとう」


そう言えば、誕生日の最後に彼女に会えたことは嬉しかった。でも彼女に言うつもり

なんかなかったのに・・・。


「あっ!!」


爽子はいきなり声を上げると、立ちあがって、たーっと部署を出て行った。

光平はただ茫然と彼女の行動を目が点になって見ていた。

そして、部署を出て行った、彼女が何か手に持ってまた帰ってきた。


「え??どうしたの?いきなり」

「あ、あのね、これ・・・」


爽子は、手に持っていた箱を机に置くと、パカッと箱を開けた。


「じ、実は・・・今日、友香ちゃんも誕生日なんだって。同じだね。田口くんと。すごい

 偶然だね。びっくりしちゃった。そ、それで、友香ちゃんに作ったケーキなんだけど、

 友香ちゃん・・・今日、有休取ってたって知らなくって・・・」

「え・・・・」

「や・・だよね。人のために作ったものなんて・・・」


爽子はとっさに思いつきでやってしまったことに後悔をして青ざめていた。

光平は、唖然と口を開けてケーキを見ていた。


「ごめんっ片づけるね!!」


爽子がケーキを片付けようとすると、光平はさっと爽子の手を持って制止した。


「これ・・・黒沼さんが作ったの?」

「あ・・・うん」


光平はまるで買ったかと思うほどきれいなケーキに見惚れていた。


「これ、家に持って帰るの?」

「あ・・・うん。腐るので・・・」

「でも、俺にくれようとしたんだよね?」

「すみません〜〜〜思いつきで!!」


必死に頭を下げている爽子に光平は言った。


「嬉しい・・・・沢渡に感謝だな。ここでお祝いしてくれる?」

「え・・いいの?わ・・・私でよければ是非!!」


光平はそんな爽子の優しさに嬉しくなった。やっぱり人間的にも本当にいい子だ。

例え、恋愛じゃなくても人間的に好きだ。

爽子は上に乗っている友香へのプレートを取って、周りにろうそくを立てた。

その間に、飲み物買ってくると光平は急いで降りて行った。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「ハッピバースデートゥーユー♪ ハッピバースデートゥユー♪」


恥ずかしそうに歌う彼女が時々、優しい微笑みを浮かべて俺を見る。

真っ暗にした社内にケーキに灯されたろうそくの明かりが二人を照らしていた。

光平は思った。なんて幸せなんだろう。不思議なほどの安心感。心地の良い躍動感。

静かな社内に二人きり・・・。このまま時間が止まればいい。


歌い終わった爽子が、電気をつけようとした時、光平はとっさに止めた。


「このろうそくの火でケーキ食べたらだめかな?なんか涼しくていいなぁって」

「あ・・そう言えばそうだね」


光平は無意識で爽子に警戒させないように言葉を取り繕っていたのだと後から気付

いた。その時はただこの雰囲気を壊したくないだけだった。だけど、それが自分の

首を絞めることになるとは思っていなかった。


「こんな日ぐらい・・・いいよな」

「え?」

「いや、何もない」


光平はひとり言を呟くように言った。


「カンパ〜イ!おめでとう!!」

「ありがとう!」


光平は買ってきたワインボトルを開け、爽子は会社だからとアルコールは断って

ジュースで乾杯をした。


「うわ・・・うまい。すごいね。黒沼さん。こんなのできるんだ」

「よ、良かった〜気に入ってもらえて・・・」


本当にほっとしたように言うから思わず笑みが零れる。


「まさか・・・黒沼さんがお祝いしてくれるなんて思わなかったよ」

「あ・・・私ですみません〜!!」

「いやっ嬉しいって。帰っても一人だったから」

「・・・・誕生日って特別だから。私だったら祝ってもらえたらすごく・・嬉しいから」


情緒あるろうそくの火が、ゆらゆらと彼女のきれいな横顔を映し出す。


「・・・うん。ありがとう」


光平は見かけだけではなく味も良い、特別なケーキに舌鼓みをした。こんな幸せな時なの

に、彼女の横顔を見ていると、彼女の心に住み着いている存在が気になってしまう。


「風早も・・・好き?」

「え?」

「いやっ風早も甘い物好きなのかなって?」

「あ・・・うん。いつも食べてくれるけど・・・」


光平は思わず本音が出そうになった。風早のこと好き・・・?って聞いてどうする?

好きに決まっているのに。光平はまたそっと彼女の横顔を眺めた。

風早の話題が出たせいか、さっきより艶っぽい顔をしている。


(風早のこと・・・考えてんだ)


今日は自分の誕生日なんだ。自分のことを考えて欲しいていうのはわがままだと

分かっている。話題に出したのも自分なのに。何したいんだろ。自分。


「もうすぐ、仙台だね。田口くん。皆に会えるね!」


嬉しそうに微笑んでいる彼女。ただの普通の会話だって分かってる。でも、少しは

寂しがって欲しいとか、行って欲しくないとか・・・・心のどこかでそんな言葉を

待っている。


光平はペース良く飲んでいるうちに、ワインボトルをあっという間に開けてしまった。


「黒沼さんが・・・仙台行きたいよね」

「えっと・・・・?」


段々と光平の目が据わって来ている。


「愛しの風早くんが待ってるもんね〜〜〜〜♪あはは〜〜」

「田口くん・・・酔ってない?」

「え〜〜〜酔ってないよ??」


光平は机にうつ伏せながら、顔は爽子を見ていた。


「あ・・・あの?」

「うん?」

「な、何かついてるかな・・・私。それともまさか・・!怖いかな?」


あまりにも凝視されるのでさすがの爽子も視線が気になった。


「あ〜ごめん。見過ぎた?あはは〜怖いって??確かにちょっと怖かったかも」


がぁ〜〜〜〜〜〜んっ


爽子は光平の言葉が頭の中でエコーかかりショックを受けていた。光平は爽子のそんな

様子はお構いなしで自分の世界で語りだした。


「いや・・・最初はなんか怖いって言うか固いっていうか、ミステリアスっていうかさ・・・。

 でも花を大事にしてたり、丁寧に仕事をしていたり、時々見られる笑顔とかさ・・・」


光平はそこまで言うと、爽子の目を見てはっとした。不思議そうに次の言葉を待っている彼女。

ろうそくの火がゆらゆらと揺れて彼女の顔を照らす。初めてじっくり見る彼女の顔。大きな瞳

に白い肌、紅い小さな唇。彼女から目が離せなかった。あまりにも綺麗すぎて。

急に二人きりだということを意識した。そして自然に生まれた感情。


”触れたい・・・”


「た・・ぐちくん?」


光平はごくりと喉を鳴らした。


薄暗い光の中、彼女の瞳に移すのは自分だけ。風早はここにはいない。


”触れたい・・・”


光平は吸い込まれるように彼女に手を伸ばしていく。


最初からきっと彼女を見つけていた。怖いとか固いとか、ミステリアスとか・・・・それは

ただの言い訳に過ぎなかった。・・・・今、やっと分かった。




光平は止めることが出来ない感情があるということを初めて知った。








あとがき↓

上手くUPできていなかったみたいですみませんでした。またまたすぐに修正できなくって(泣)
あと少しだったんですけどね。さて、光平はこのまま感情に走るのか!?それとも・・・??
それではいつも楽しみにしてくださっている方ありがとうございます。また遊びに来て下さい。

Half moon 26