「OVER the TEARS」(14)

最終回のはずが長くなっちゃって・・・。読んでいたら疲れるので、
2回に分けました。くどくどしてます。風早と母との場面になります。
これは OVER the TEARS           10 11 12 13 の続きです。
それでは以下からどうぞ♪














社長室の中は緊迫した空気が流れていた。



「全部、ご存じなのになぜ真実に目を背けるのですか?」

「何のこと?」

「道哉くんのこと、誰よりも知っているのはあなたですから」

「!」


風早は爽子が道哉のことで悩み苦しんでいる姿を見て、嫉妬した

時もあったが、真っ直ぐ、純粋に向き合う爽子にやはり、憧れを

抱かずにはいられなかった。そしていつもそんな爽子を支えたい

と思うのだ。


「・・・黒沼さんが私に会うように言ったの?」


道哉の母は一瞬作業の手を止めた。しかし、冷静さを取り戻そうと

再び仕事を進めようとした。


「いいえ。俺が勝手に来ました」

「・・・・・。」


「黒沼さんには申し訳ないことをしたと思ってるわ。でも何もなかったんだし、

 事を荒らげるのは止めて頂ける?仕事があるので帰って下さい。」


そう言って、道哉の母は秘書を呼ぼうとした。その手を無言で止めて風早は続けた。


「少し・・・調べさせて頂きました。」


政略結婚に近い形で瀬戸家に嫁いだ道哉の母には結婚を約束していた男性がいた。

どうしても関係を切れなかった二人はその後も密会を続けていた。そして

道哉を孕んでいることに気付いたのだった。


「不倫なんて許されるものではないけど、その人はあなたにとって特別だった。

 だから道哉くんを生んだんですよね」


「・・・・・・。」


「でも、瀬戸家で生きていくことを選んだあなたは、それを隠し続けた。」


母は俯いたまま、書類を握りしめた。そして体をふるふると震わせながら

机を叩いた。


どんっ


「わ、分かった風なこと言わないで!!まだ青二才のくせに!あなたに関係

 ないじゃない!こんなところまで来て何がいいたいの!!」


一番触れられたくない部分に触れられた母は感情を露わにした。

風早はその様子に動揺することなく言葉を続けた。


「道哉くんはどうしてお兄さんをかばったと思いますか?」


「・・・・・・。」


道哉の母は風早の言葉を聞いて、表情が変わった。


「お兄さんが犯人だとあなたが困るって思ったからじゃないですか!?

 ・・・あなたの愛情を誰よりも求めているのは道哉くんですよ」


無言で耳を傾ける母に拳を固めながら風早は言った。


「俺、・・・まだ青二才だけど、かけがえのないものというのを知っています。」


「その存在が全てなんです。正直、あなた達の家族がどうなろうと関係ない。

 でも・・・でも爽子が傷つくのだけは許せないんです。」


「・・・・・。」


しばらくの沈黙があった。そして

真正面にぶつかる風早に、今まで怒りの感情露わにしていた母だったが、観念

したようにふっと表情を緩めた。


「あなた・・・黒沼さんをものすごく愛してらっしゃるのね?」

「・・・はい」


「・・・・うらやましい。私もそうだった」


母は昔を懐かしむように真実を語り始めた。


真っ直ぐ、純粋に激しく求め合った二人。でも母の結婚によりその愛は終わる

かと思われたが、あまりにも激しすぎた二人は離れることができなかった。

最初は離婚を考えていた母であったが、年を重ねるごとに貪欲になり、瀬戸家

の地位や、仕事など大切なものが沢山出来ていったのである。夫も、もともと

政略結婚ということから母に深い愛情はなく、仮面夫婦であった。

そんな中で生まれた夫の子どもではない、道哉。それは初めての愛する人

子どもだった。母は感動さえ覚えた。でも瀬戸家の中でどう接すればいいのか

分からなかったのだ。


「・・・不器用だったんですね。お互い」


母は誰よりも道哉を愛していたのだ。でもそれを自覚すればするほど、瀬戸家

や会社での自分の立場を考えてしまい、道哉にはつらく当たっていたのであった。


「それじゃ・・・実際にあなたに愛情をもらってないのはお兄さんの方だ」

「・・・・・。」

「子どもに罪はないんですよ。そして・・・愛を知らないと人を大切に

 思うことはできません。」

「道哉くんもお兄さんもあなたの息子に変わりはないんだから」


嘘偽りのない風早の言葉はすっと母に入っていく。風早の人間性は誰もの

心を開いていく。それは天性のものだけではなく、爽子との出会いが彼を

大きく変えていったのだった。  ”かけがえのないもの”


「・・・私、自分のことばかり見てたわ。かけがえのないものがちゃんと近くに

 あったというのに。私・・・・っ」


そう言って、母は泣き崩れた。


「今からでも遅くないと思います。あなたの今の気持ち・・・二人に伝えてあげて

 下さい。きっと伝わりますよ!!」


風早はいつもの笑顔で微笑んだ。



「・・・ありがとう。そして・・・ごめんなさい!あなたの大切な人を

 傷つけて、本当に・・・本当にごめんなさい〜〜っ」


母の本心からの言葉を風早はしっかり受け止めた。

そして、瀬戸家に幸せが訪れるように・・・と願った。










あとがき↓

くどくどして嫌ですね〜!物語上まとめないといけないしね〜!とにかく
真っすぐな風早を書きたかったわけですね。次こそ最終回です。
よければ続き見に来てください。
OVER the TEARS 15  へ