「Once in a blue moon」(100)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45
46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71
72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97
98 99 の続きです。   

☆ 爽子がゆづに気づかされたある想いとは・・・?引き続き蓮目線です。












・‥…━━━☆ Once in a blue moon 100 ‥…━━━☆















彼女はゆづに大切なことを教えてもらったと言った。
さっきから考えていた、ゆづがなぜあの夜そんな行動を取ったのか・・・
後から考えたらあの事故を経た俺には簡単に分かることだったのに、この時は目の前の
ことに必死で平常心ではなかった。


柄にもなく彼女の一挙一動に翻弄されている自分をリアルに感じる。


「嫌な思いなんて・・してないよ」


目を潤ませながら熱っぽく語る爽子に蓮はぐっと息を飲んだ。
彼女といると自分がどんどん俗っぽい人間になっていく気がする。俺のことを本気で考
えてくれている純粋な目とは真逆な色のついた感情。でも不思議にその感情に嫌悪感は
なく戸惑いの方が大きい自分に驚く。


「あの夜、ゆづちゃんは何を私に伝えたかったんだろうってずっと考えていて、私の中
 にある気持ちはいけないことなんだろうか・・と悩んで」


俺がまさに今、考えていたことを口にした彼女はそこで言葉を区切って言いにくそうに
表情を曇らせた。


だから伝わってはいけない想いだったのに・・・。
胃がキリッと痛んだ。


しかしそんな後ろ向きな自分とは違い、彼女はすでに答えを見出していたことを知る。
強い視線の先はしっかりと前を向いていた。


「でも分かったの。その感情を持つことで、”形”が出来てしまうことが・・怖かっただ
 けなのだと」
「・・形・・?」
「恋愛という形・・です」
「・・・」
「だから自分勝手に蓮さんの幸せを望んで、蓮さんを苦しめていたのかと・・・っ」


蓮は感情を堪えるように言う爽子を呆然と見つめながら”あんたがそんなわけないじゃん”
と心の中で呟いた。爽子と恋愛の話をしていることも不思議だし、ずっと封印してきた
想いが伝わってしまったことも信じられない。真実しか口に出来ない彼女が言ったこと
に嘘はない。でもなぜか両想いで嬉しいという思いが自分の中にないことに驚く。
そんなものではなくて・・・
心の中でモヤモヤしていたものを晴らしてくれるように彼女が言った。


「でも・・気づいたの」


蓮は晴れ晴れした表情で言う爽子の視線の先を見つめる。限りなく広い青空を。


「私はいつの間にか大人になっていて、”形”を作ってしまっていた。ゆづちゃんには形
 そのものがなくて・・純粋に蓮さんが苦しんでいたら助けたいって思っていたことに」
「・・・!」


その時、体の中で何かが弾けた感覚を覚えた。
さらに続いた彼女の言葉に俺の中の靄が消えていく。


「友情、家族愛、隣人愛、恋愛・・・様々な形がこの世にあるけれど、全部、どれも人
 間愛なのだと気づいた時、答えが出たような気がしたの。そしてやっと・・蓮さんに
 も翔太くんにも向き合えるって、思った。人を愛するのに理由なんかいらないんだと
 ゆづちゃんに教えてもらった」


そして爽子は青空に向けていた目を蓮に向けた。


「大好きな気持ちは全部、本当で、大切な私の感情なの・・」


その真っ直ぐな瞳で紡がれた言葉は蓮の心に染み入っていく。
涙が光に反射してキラキラと光っては落ちていく。まるで一滴が宝石のように感じた。
一生懸命言葉で伝えようとしている彼女をどうして疑うことが出来るだろうか。
そして彼女は気持ちを込めるように言った。


「蓮さんは、私にとって・・特別で大切な人です」


こんなに正直な人を知らない。こんなに愛にあふれた人を・・・
身体中が痺れるような感動さえ覚える。ものすごく、好きだと思う。たまらなく愛しい
と思う。出逢えたことが心の底から幸せだと思った。俺の気持ちを受け止めてくれて、
一生懸命返そうとしてくれる。”大切”という言葉にどれだけの意味があるかを俺は知っ
ている。あまりにもシンプルなゆづの行動の意味も。


またゆづに救われた・・・


蓮は目尻が下がり、優しい面持ちで言った。


「すっかり大人になっていたのは俺の方だ。純粋なゆづのことが分からなくなっていた。
 大切なこと、俺も気づかせてもらっていたのに・・」
「・・あの手術の日?」


蓮は穏やか表情で微笑み、そっと頷いた。
ゆづは彼女に俺を救って欲しかったのだ。救えると感覚的に知っていたのだろう。どこ
まですごい子なんだろう。そしてどこまできれいなんだと思った。


「なんでここまで・・こんな俺にって思うよ」


ゆづに出会えたことが奇跡。そして・・・


「蓮さんだから」
「!」


爽子の吸い込まれるような迷いのない目がまっすぐ蓮に注がれる。その言葉にすべて集約
されているように愛情を感じた。胸が熱くなっていく。俗っぽい感情も全部受け止めてく
れる彼女に出逢えたこと・・・


それこそが奇跡。


蓮はふぅと青空に向けて息を吐くと、爽子の方を向いた。


「!」


その強い眼差しに爽子は思わず身構える。


「・・ありがとう。”好き”だと言ってくれて。マジで嬉しかった。天にも昇る気持ちっ
 てこういうことなんだな」


蓮はそう言って柔和な笑顔を浮かべた。その自然な笑顔から爽子は目を離せずに呆然と
見つめる。そして蓮は少しの間のあと穏やかな口調で告げた。


「でも、一緒に居たいのは翔太なんだよな」
「!」


爽子は驚いたようにびくっと目を見開いた。そして感情を堪えるように結んでいた口が
振るえ、表情が段々と崩れていく。目から大粒の涙が次から次にあふれ出した。


蓮はすべてを悟りきったような優しい眼差しで爽子を見つめていた。







「Once in a blue moon」 101 へ

web拍手 by FC2

ご訪問ありがとうございます。よければ感想くださいね♪















あとがき↓

相変わらずややこしい言い回しですみません・・うぅん伝えるの難しい。つまり、この
話で書きたかったのは恋愛だけがすべてじゃなくて人に大切にされることを蓮には爽子
からもらって欲しかったというか・・。恋愛感情もあるけどそれだけじゃないっていう
のを書きたかったのですが、文章力なくてすみません。恋愛としては爽子→蓮はあるつ
もりで書いてます。だけど恋愛を超えた想いってあると思いませんか?なーんてね。
ついに100話超えしちゃった・・なんでこんなにまとめられないんだろ。すみません。