「Once in a blue moon」(79)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45
46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71
72 73 74 75 76 77 78 の続きです。 

☆翔太が出張を入れてまで会いたかった人物。そこに居たのは・・・?













・‥…━━━☆ Once in a blue moon 79 ‥…━━━☆












運命と言うものはこういうものだろう。躊躇していた俺のもとに舞い込んでくる。
まるで逃げても結果は同じだと運命から後押しされているかのように。


「庄司・・・先生」


振り返るとそこに居たのは仙台に来て会いたかった人物。秋山さんの旦那さんであり、
美穂さんの元主治医。そして・・蓮のもっとも信用する人物。(だと思う)
俺はしばらく声が出ずに呆然と先生を見つめていたようだ。先生はほんの少し口角を上
げるといつもの柔和な微笑みを浮かべた。


「偶然ですねぇ。すみません、お仕事中ですか?」
「あ・・はい。先生も?」


翔太は庄司の背後をちらっと見て言った。何人かの人を引き連れている。ラフな服装の
軍団なので仕事のようにも思わなかったが一応聞く。


「いや、滅多にないインターン時代の同期の集まりなんですよ」
「そう・・ですか」
「・・・」


庄司はしばらく翔太を見つめると、”それじゃ、仕事中すみません”と軽く会釈して翔太
の向こう側のテーブルに座った。


「風早くん?知り合いかな?」
「あっ・・あぁすみません。友人の旦那さんなんです」
「へぇ〜仙台も広いようで狭いですなぁ」


(・・っくりした)


翔太は動揺している自分自身を必死で隠した。今はとにかくすべてを忘れて仕事をしな
くては・・といつも通りの仕事の顔を装った。


* *


「本日はありがとうございました」
「久々に酒を飲みながら風早くんと仕事が出来て懐かしかったよ」
「はい・・」
「またちょこちょこ仙台出張入れてくれよ。じゃ、納品は予定通りな」
「はい。よろしくお願いします」


居酒屋を出て、タクシーを拾うと深々と頭を下げた。酒に酔った重役達が気分良く窓か
ら手を振り去っていく。


(・・ふぅ・・)


仕事の交渉も上手く行った。これで仙台に来た目的も果たせた。今度は・・・
翔太は先ほどいた居酒屋の方に目を向けてぎゅっと拳を握りしめる。


がらっ


戸を開けて入ってきた翔太を庄司は驚きもせず見つめる。そして何か気まずそうに立って
いる翔太の前までやって来るとにっこりと笑った。翔太は思わずきょとんっとする。


「仕事が終わったのなら飲みません?」


そう言って庄司は違う席を指さした。


「え?」
「あの人達とはまた会えますから。あなたは滅多にない出張でしょう?」
「あの・・」


庄司と翔太が話しているのを見て仲間達は”いいよ〜”とOKのジェスチャーをしている。
全てお見通しのような庄司に翔太は戸惑うが、そのまま従った。自分もこうなることを
望んでいたとは言え、スムーズにいき過ぎる展開に心の準備が整っていない。


(うまく・・話せるだろうか)


こと、爽子のことに関して上手く自分を作れたことはない。素の自分が見事に出てしま
う。余裕なんかいつもない。それは昔も今も変わっていなかった。


「しかし偶然ですね。こんなところで会えるなんて。私が夜に飲みに行くことなんか
 滅多にないので」


庄司は持ってきたグラスのビールを一口含んで言った。


「・・そうなんですね」
「風早さんもでしょ?」
「え?」


庄司はにっこりと微笑んだ。


「この間、仙台に来た時に言ってたじゃないですか?仙台出張は殆ど入れていないと。
 照れながら」
「えっ・・そうでしたっけ?」
「それは出張で家を開けたくないって意味でしょ?」
「///あ、ハイ」


庄司は素直な翔太の反応に思わず笑みが零れた。


(はは・・すべてお見通しだ)


自分がこの時間にここに居る時点ですべて悟られているのだと思った。
翔太はふっと笑みを漏らすと小さな息を吐いた。


「・・・敵わないな。先生には」
「だから、先生は止めて下さいって」
「あ、すみません。でもやっぱ先生で。蓮から聞いていたイメージは先生でしかないので」
「頑固ですね〜〜」
「よく言われます」


あはは〜


柔らかい口調、柔和な笑顔。だけど鋭い洞察力。ドクターなのだから当たり前なのかも
しれないけど、この人になら相談してもいいと思わせる何かがあった。
蓮もそうだったのかもしれない。美穂さんを立ち直らせたこの人ならと。


「あの・・いきなり不躾ですが、美穂さんはもう治ったんですか?」
「う〜ん、あの病気は完全に治るって言うのは難しいですが、良くはなったと思いますよ」
「じゃ・・蓮はもう苦しまずに済むわけですね」
「ま、以前よりはそうだと思いますけどね」


この人が話しやすいのは突飛な質問をしてもいちいち構えずすっと返答してくれるとこ
ろかもしれない。それこそすべてお見通しだからだろうか。不思議そうな表情をしてい
る翔太を見て、庄司はふっと笑うとグラスを傾けて言った。


「世の中には色々なことで苦しんでいる人がいます。他人から見ると大したことがない
 ことでも当の本人は死にたいぐらい深刻なことだったりするので人の考え方や価値観
 などを一つの物差しで測ることは出来ないと思うんです」
「・・・」
「人が人を分かろうとするのはただの奢りに過ぎないかもしれませんね」


蓮の苦しみをずっと分けて欲しかった。大事な友人だから、一生付き合っていきたいと
思った。だけどそれはまさしく先生の言う通り自分の中の”奢り”だったのだ。
蓮の苦しみを理解できるはずがなかった。


「でも、その心に寄り添うのが私の仕事ですから」


先生はそう言ってにっこりと笑った。翔太はその笑顔をぼーっと見つめてた。そして考
えるより先に言葉が出た。


「俺は蓮の心に・・寄り添えるでしょうか」
「はい」


先生は躊躇なくそう返事した。翔太は大きく目を見開く。


「月並みですが、乗り越えられる試練しか神は与えないと言うでしょ?もし、風早さん
 が苦しいことがあったとしたら、それは必然な試練なのかもしれませんよ」
「・・・っ」


必要な試練。それは蓮にも言えるのかもしれない。
翔太は庄司に真剣な目を向けた。


「・・先生。俺の心にも寄り添ってもらえますか?」
「もちろん」


作った笑顔でもなく、その人自身が感じられる笑顔。それは最近自分が失っている笑顔
のように思えた。この夜、やはりこの人に会えて良かったと思う。
俺は人との垣根がないように思われるが実はその正反対で垣根を沢山作っている。だか
ら何の垣根もない純粋な心で人に接する爽子に憧れたんだ。誰もが爽子を知ると憧れる
と思う。自分以外の人間を心から想える爽子のように、俺も大切な人を守りたいと思う。


「実は・・・」




この時、やっと蓮に向き合う覚悟が出来たような気がした。





「Once in a blue moon」 80 へ















あとがき↓
話を進めるには説得力のある人物の投入しかありません。爽子ならあやねのように(笑)
オリキャラでありながら先生はかなり使えます!!ありがとう〜〜庄司せんせ。