「Once in a blue moon」(78)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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72 73 74 75 76 77 の続きです。
 

☆蓮も麻美もいなくなった。爽子と翔太は複雑な想いを抱えながらもお互い持ちを言い合う
 ことはなかった。翔太の想いとは?翔太目線いきます。 




















ちゃんと笑えているだろうか?
最近、一人になって鏡を見ると”ニッ”と口角を上げる癖がついたように思う。
何も変わらないとばかりに笑顔を作る俺は今にも崩れそうな壁を必死に押えて立っ
ている。でもその壁を守り抜く自信はあった。絶対繰り返さない。


もう二度と、
あの頃には戻りたくないから





・‥…━━━☆ Once in a blue moon 78 ‥…━━━☆











「じゃ、社長。新製品の導入をよろしくお願いします」
「予定じゃなかったんだけどなぁ。仕方ないか、風早さんにわざわざ仙台まで出向い
 てもらったんだから」
「無理言ってすみません」
「いやいや、君の爽やかな笑顔には誰もが敵わんよ」


あはは〜〜っ


この日、翔太は仙台に来ていた。結婚してから殆どない泊りがけの出張だ。今やトッ
プクラスの営業マンである翔太は自由に仕事を調整できるようになっていた。今まで
何より爽子と結月の時間が大切な翔太は泊まりの出張を入れないようにしていた。
だけど今回は仕事を私的な用事のために使っている。幸い仙台には仕事が沢山あった。
爽子に隠れて何をしているのだろうと思う。


(仕事でも笑顔か・・・)


翔太は得意先を出てすぐに心でそう呟くと小さなため息をついた。
正直仕事では笑顔を作らないといけないこともある。それは爽子に向けるものとは明
らかに違っていた。俺はいつの間にか笑顔を使い分ける大人になっていた。


仙台に来た理由


一つは、蓮を探すこと。蓮に会わないと今の精神状態を保つ自信がないから。
でも心のどこかで会うのを恐れている。もし、今会ったなら普通に話せるだろうか。
けど・・・会わなければいけないと思う。会って伝えたいことがある。


もう一つは蓮以外に会いたい人がいるから。
その人は全部知っているような気がする。それは勘だ。
本当はその人に会うのも躊躇している自分がいる。どこまで臆病なんだと思う。もし
その人に会って曖昧にしていた部分が確信に変わった時、長年探し続けた答えが出そ
うで怖かった。その時、俺は俺でいられるのだろうか・・・
この世で一番大切な人と両想いと分かって、恋人になって、一緒に様々な経験をして、
夫婦になって家族になった。遠恋の頃とは違う、今まで築いてきたものに確かなもの
がある。大事なものを間違わない自信もあるのに・・・


なんでこんなにせつないのだろう
この苦しみをアイツはずっと背負ってきたとしたら、どれだけ強い奴なんだろうと思う。
そして俺はどれだけアイツを苦しめていたのだろうと・・・
最近そこまで考えると思考がストップするということを繰り返しているような気がする。
ストップさせないと永遠のループを回りそうで怖かった。


爽子のせつなそうな哀しげな表情を見た時から回り続けているループ。でも不安にさせ
たくなくて、必死に保つ自分自身。今回ばかりは簡単に聞けない、気持ちを言えない。
言葉に出来ないほど大切だから。最後に行きつくところはいつも同じ。


俺はちゃんと爽子を幸せに出来ているのか・・・?


* *


わいわい、がやがや


「そうか〜〜お子さんも5歳になるんだ。早いねぇ。あの風早くんがね〜」
「本当に。見た目は全然変わらないのにね。子どもがいるように見えないよ」
「ははっ・・よく言われます」


(仕方・・ないよな)


まだ週の真ん中だというのにほどよく広い居酒屋の中は満席とばかりに賑わっていた。
あの後回った得意先の子会社での営業は酒の席へと持ち込まれた。何人かの重役に囲
まれて、少々緊張気味な固い笑顔を作りながら酒を口に含む。仙台の子会社は家庭的
でこんな風に居酒屋でラフに仕事の話をすることが多かった。仕事で酒を飲む機会が
増えてかなり強くなったと思う。アルコールは饒舌にしてくれるというのは本当だ。
でも嘘はつきたくない。誠実に精一杯仕事をしたいといつも思っている。でも今夜は
100%の気持ちを入れて仕事をしていると言えるのだろうか?


(仕事が入ったんだから・・仕方ない)


明日は帰らないといけないというのに俺は逃げるかのように接待という大義名分のも
とに仕事をしている。心の中の呟きを言い訳と知りながら。
間違わない自信があると言いながら、不安に押しつぶされそうなほんとの俺。


”『翔太はさ・・・分かんねーんだよ。出会った人間だから』”


いつか蓮がそんなことを言っていた。出会う、出会わない、それは何の基準もなけれ
ば誰が決めるものでもない。確かなのは自分の中にある想いだけ。
もし、蓮がそう思うのであればその想いが分かるということだ。唯一無二のこの想い。
爽子といると魂が震えるような感覚を覚える。
でも蓮は知らないだろう?
熱く焦がれる想いと同時に起こるモノ。それはまるで汚れのない水に墨を落として滲
んでいくかのように俺の中に広がる黒い闇。掴んだものが消えてしまう不安。大切過
ぎるから想像してしまう・・・失った時の恐怖を。


(・・出会ったからこそ・・苦しいこともあんだよ。蓮)



「ーん?風早・・さん?」


その時、背後から掛けられた声に現実に戻り反射的に振り向くと、そこには仙台に来
たもう一つの理由の人が立っていた。


俺はしばらくの間、呆然とその人を見上げていた。




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あとがき↓
ノリに乗って一気にいきます。相変わらず場面場面長いわ・・・すみません