「Half moon」(29)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。
居酒屋で風早と偶然会った沙穂は店の外で風早を待ち・・・?
こちらはHalf moon         10 11 12 13 14 15 16 17  18  19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 の続きです。
それではどうぞ↓














どきどきしながら店の外で風早を待っていた沙穂は、戸口が開いた音に

即座に身を乗り出した。店からは何人かの男たちに続き、風早が笑いながら

出てきた。


(あっ・・・!)


「んじゃな〜〜〜。また明日」

「風早、同じ方向だっけ、帰ろうぜ」

「おっけ〜・・・・っと、秋山さん??」


沙穂を見つけた風早は驚いたように目を大きく見開いた。


「あ・・・一緒に帰れるかと思って・・・」


沙穂は恥ずかしそうに言った。そんな二人を風早の同僚は覗きこんだ。


「風早の彼女??」

「彼女!?」


沙穂は思わぬ風早の同僚の言葉に嬉しくなってびっくりしたように復唱した。


「いや。友達。」

「・・・・」


本当にそうなんだけど・・・その言葉がとても無機質に感じた。


「沙穂ちゃ〜〜ん!」

「え??」


その時だった、嫌な予感がした。甘えた声に振り返ると・・・・!?

そこにはさっきの同期がいた。


(え??何?今まで名前で呼ばれたことなんかないのに?ってかまだ居たの?)


どうも沙穂の動向を近くで伺っていたらしい。沙穂は風早の動向を伺い、同期

の女子は沙穂を伺い・・・という系図だったらしい。


「あれ〜〜??君たちかわいいね!何?風早の友達?」

「は〜い!」


同期の女子はしなをつくりながら返事をした。そこに風早の会社軍団がやってきた。

風早は先輩たちに囲まれて、複雑そうな顔をした。


(はぁ〜??)


沙穂はその女子のあまりの行動に怒りが込み上げてきた。


「ちょっ―――!!『なぁに?』」


沙穂が怒りをぶつけようとしたその時、同期が沙穂の耳元で笑顔は絶やさず言った。

”あんたも同じ穴のムジナじゃん。あの人待ってたんでしょ?”


「!!」


沙穂はカッと身体全体が熱くなったような気がした。羞恥と怒りで・・・・。


「風早も隅に置けないよなぁ〜ねぇねぇ、君たちどこの会社?」


風早の先輩のような輩たちは、チャンスとばかりに沙穂たちに近づいて、同期の女子と

コンパの話で盛り上がっていた。すると、同期の女子はすかさず言った。


「風早さんが参加するなら・・・」

「また、風早かよっ。」

「風早、彼女いるそーだよ。それでもいいの?」

「え〜〜〜??マジですか?」


沙穂はこれ以上見てられないと、風早の手をぐいっと引っ張って言った。


「ごめんなさい。これから私たち用事があるんです。帰ります!」

「え??沙穂ちゃん!」

「ちょっと〜〜!!」


沙穂は一心不乱に風早を引っ張って歩いた。背中には針のように刺さる視線を感じる。

でもいいんだ。どうなっても、もういい。


はぁはぁはぁ・・・・


しばらく走った後、沙穂は息を荒くして風早を見上げた。


「ごめんっ・・ね」

「あの子、強引で・・・」


私は、あれ以上、あの場にいることができなかった。風早を色気のある顔で見られるのが

耐えられなかった。自分のものでもないのに・・・。


「大丈夫だよ」


風早はいつもの笑顔を浮かべてくれた。


「こっちこそごめんな。先輩たちもひつこくてさ」

「ううん・・・」


ドキンッ

その時、真っ暗な夜道に二人きりだということに気付いた。どさくさまぎれとはいえ、

二人きりの状況に胸の鼓動が高鳴った。


「とりあえず、送るよ。」

「えっいいの??」

「ってか、同じ方向じゃん。それに夜道を女の子一人にする程、冷酷な男じゃないよ」


あはは〜と笑う風早に見とれながら幸せな時間を噛みしめる。その時、沙穂は思った。

彼女より風早の近くに私はいる。距離は大きな障害だ。


「偶然とはいえ、二人になっちゃたね。彼女に内緒した方がいいんじゃない?」

「え?どうして?」

「どうしてって・・・」

「友達だからいいじゃん。」

「・・・・・」


沙穂は、全くうしろめたいことがないという風早の横顔を見ていると、複雑な気持ちになった。


(そんなじゃ、うしろめたいこと・・・したくなるよ。)


「遠距離って・・・つらい?」

「う〜ん。つらいけど、いい修行になるよ」

「修行??」

「うん。自分を試されてる」


沙穂は、風早の言葉に少し口角を上げた。・・・ということは浮気の誘惑とかの可能性もあると

理解したのだ。

一方風早氏は”独占欲を我慢するということ”なんて思っていたのだが・・・。


「それよりさ、秋山さん仕事、楽しくないの?」

「え?」


沙穂はいきなり、予想外の風早の言葉にどきっとした。


「実は、トイレで会う前から秋山さんのこと気付いていたんだ。」


見られてた・・・んだ。

沙穂はさーっと背筋が凍るような感覚を覚えた。そして必死であの時の行動を

思い返した。きっとすごい顔してた。


「声・・・掛けてくれたら良かったのに・・・」

「うん。でもさすがに職場関係だと思ったしね」

「楽しく・・・なさそうだったでしょ。」

「うん・・・そうだね。俺達と一緒にいるときのような秋山さんじゃなかったな」


沙穂はさっきの舞い上がっていた気持ちから一転して、暗い表情になった。

見られたくなかったな・・・。


「職場で居場所を感じられなくて・・・。仕事も失敗ばっかだし・・・・」


沙穂はそう呟くと、横を歩いている風早の表情を伺った。


「風早は・・・失敗とかしないでしょ?」

「ははっそんなわけないじゃん。するよ〜。失敗しない人間なんていないって」


そう言って笑う風早に沙穂は気持ちが軽くなったような気がした。


「風早でも失敗するんだ・・・」

「失敗ってさ、今しないと損だよ。今失敗して、いっぱい先輩から教えてもらいなよ」

「どうして・・・そんな風になれるの」


沙穂は風早に憧れる気持ちと一緒に自分に対する情けなさを感じ、ジレンマに陥った。


「え?」

「いつも前向きで輝いてられるの?」


沙穂は俯いたまま、目に涙を溜めながら言った。


「う・・・ん。まぁ能天気?な性格もあるかもしれないけど・・・・。目標にしている人と、

 人生の目標があるから・・・かな。」


風早の目はいきいきとして真っすぐ前を見ていた。


「人生の目標って・・・・」

「ない?秋山さん」

「・・・・・。」


彼女とのことを聞こうと思った沙穂は逆に聞き返されて、黙り込んだ。

風早はそんな沙穂を真っ直ぐ見て言った。


「なければ・・・これから作ればいい。人生長いんだからさ。たった一つでいいんじゃないかな」


そんな風早を見て沙穂は溜めていた涙が溢れ出た。


「あ、あれ??どうした??」

「風早って・・・ひどいよぉ・・ひっく・・・くっ」


”げっ泣かせちゃった〜〜〜??”と風早はおろおろしながら焦っていた。


今まで、こんな人いただろうか。恋愛体質な私は今まで沢山の人を好きになった。

それは男として好きになった。だけど風早はそれだけじゃない。恋愛だけじゃない。

人として、きっと私を導いてくれる。正しい方向へ。

どうしても手に入れたいと思う感情は罪だろうか。


沙穂は濡れそぼった瞳で、夜空を見上げている風早の横顔に見とれていた。










あとがき↓
とりあえず、沙穂の巻き終わり。いよいよ爽子が長期休暇でやってきます。二人は
一応大企業ということで、休みがしっかり取れるという設定で。やっと甘甘書ける
かな〜でもちょっと修羅場かなぁ〜続きを見てもらえると嬉しいです。

Half moon 30