「Half moon」(15)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。
同じ店で鉢合わせた7人。想いはどのように交差していくのか・・・。一応光平目線かな。
こちらはHalf moon         10 11 12 13 14 の続きです。
それではどうぞ↓















今、俺たちは、牛タンを前に全員が顔を合わせている。自分の中で何が起こったのか理解

するまでに多少の時間がかかった。しかしさっきの高揚した気持ちとはまるで違い、やけに

冷静な自分がいた。蓮が風早に耳打ちしているのが隣で聞こえた。


『ごめんな、翔太。皆を止めらんなくて』

『いや・・・蓮のせいじゃないし。いつか皆にも紹介しようと思ってたから良かったよ』


「何〜〜??そこの男二人あやしいよ。しっかし、やだなぁ〜風早!彼女がいること一言も

 言ってくれなかったじゃない〜!」


昌は横の沙穂を気にしながらからかうように言った。風早はそれを受けて何も言わずに苦笑いした。


「別に言うことじゃないだろ?」


蓮は淡々とビールを飲みながら言った。そんな蓮に昌は少し頬を赤らめた。


「いやっそうなんだけどさ。まっいいか〜!とりあえず自己紹介しようよ!私、昌、

 んでこっちが沙穂、それから太陽ね」

「よろしく〜〜〜!」


太陽が挨拶した後、沙穂はそれとなく頭を下げた。そして爽子は一人一人によろしく

お願いします。と少し固くなりながら丁寧にお辞儀していた。


「うわっご丁寧ね〜爽子ちゃん。しかし、びっくりよね。光平の同僚なんて。それも

 同じ部署なんでしょ〜世の中狭いね」


昌がけらけら笑った。


(ちょっと光平まで暗いってど〜いうこと!?)


昌は一人で喋っていることに気付き、光平を睨んだ。光平は昌の視線には全く

気付かず、何も言わずに肉を食べていた。そんな光平に風早は身体を向き直して、

頭を下げた。


「すみませんでした。まさか、爽子の同僚だとは知らなくて・・・」


そして、照れたように顔を覆った。光平はさっきの風早の態度を思い出した。

風早と言う男は噂にしか知らない。でも彼女を大事にしていることだけは少しの

時間でも分かった。


「・・・・いや、こちらこそ。まさか黒沼さんがここにいるとは思わなくて」


そうだ。何を思っていたんだろう。彼女はただの同僚じゃないか。勝手に自分の

中で盛り上げていただけだ。風早の隣であの笑顔で笑っている彼女を見ても胸が

傷んだりなんかしない。


「蓮から聞いてたよ。幼馴染なんだってな!」

「そうなんだ。俺も風早のこと聞いてた。会いたかったんだ」

「俺もだよ。これからよろしくな!田口」


そう言って、風早は人懐っこい笑顔で笑った。

マジ、会いたかったんだ。それは本当のこと。どんな奴だろって・・・。蓮と気が

合うなら絶対自分も仲間になれるって思ってた。こうやって目の前にすると確かに

皆が言っていた通り、爽やかでいい奴だ。今回の仙台で会えると楽しみにしてたんだ。

自分の言葉に間違いはない。光平は自分にそう言い聞かせた。


蓮は相変わらず淡々とビールを飲んでいた。

昌はさっきから沙穂の様子を気にしながらも沙穂を直視できないでいた。沙穂は

まだ、一言も喋っていない。


「沙穂〜どうした?腹下したか?」


この中で一番勘が悪い男、太陽が沙穂の様子に気づき声を掛けた。


昌がギロっと太陽を睨んだ。


『あんた、余計なこと言わなくていいから!』

『??』


そんな3人の様子を見てか、風早が口火を切った。


「皆にはさ、すごく世話になってんだよ。右も左も分からなかったからさ。

 皆のおかげで仙台生活を楽しく過ごせてる。」


風早が爽子にそう言っているのを見て、単純な太陽と昌の顔がぱっと明るくなった。


「いやっ俺たちも風早と遊ぶようになって楽しいんだ〜」

「マジ、蓮に感謝!」

「そっか〜じゃぁ、ここお前らのおごりで」


わははは〜〜〜っ


風早の素直な言葉に場の空気が明るくなった。そんな風早を沙穂はちらっと見て

せつない目をした。続けて風早は言った。


「それから、爽子・・・この人が蓮だよ。同じ会社の」

「あ・・・・黒沼爽子です。よ、よろしくお願いします」

「こちらこそ」


蓮は風早に紹介され、ビールを置いて、爽子を真っすぐ見て言った。そんな蓮を見て

爽子はふんわりと嬉しそうに微笑んだ。


そこからはわいわい〜がやがや〜といつもの痴話話が始まって、やっといつもの

雰囲気が戻ってきたと思われた時、がたっと椅子を下げて、沙穂が立ち上がった。


「―沙穂?」


昌は驚いて沙穂を見上げた。


「― ごめんなさい。私、急用を思い出した。ほんとごめんなさい。」


沙穂は俯いたままカバンからお金をごそごそと取り出した。そして、皆と目も

合わさず、そのまま椅子を引いてさっさと出て行ってしまった。


バタバタバタッ


「え?」


しぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん


「えっと・・・」


皆はそんな沙穂にあっけに取られた。昌はこの場をどう取り繕うか・・・と周りを

見回した。そして、何かを言おうとすると蓮が口を挟んだ。


「んじゃ、牛タンを堪能したことだし、お開きとするか」


そう言って、机にバタンと手をついた。


「え〜〜〜まだ1時間も喋ってないじゃん」


まだまだ、話し足らなかった様子の太陽が言うと、じろっと蓮は太陽を見た。


「あ・・・・んまぁ・・・んじゃ。仕方ないか」

「・・そうだね。風早またね。爽子ちゃんも」

「うん、また今度な」

「あ、ありがとうございました」


蓮の言葉に皆が従った。沙穂が場の雰囲気を壊したと言えば壊したのだが、最初から

変な空気が流れていたことに昌も気付いていた。昌は、風早の彼女が今風ではなく、

古風で近づきにくい雰囲気を醸し出していたからだと思っていた。その時までは・・・・。



風早と蓮達が会計をしている間、爽子は光平に目を向けた。


「田口くん・・・あの、酔っちゃった?」


爽子は光平の無口な姿を見て声を掛けると、光平ははっと気づいたように、顔を上げた。


「あっ、なんかごめんな。びっくりしちゃってさ。仲間から”風早”の名前を聞いて

 たからさ。まさか黒沼さんのって・・・場の雰囲気悪くしたかな」


爽子は目が点になってぶんぶんと顔の前で手を振った。


「そ、そんなことないよ〜〜〜!田口くんが風早くんを知ってたなんて、ほんと

 私もびっくりしたよ。でも・・・嬉しい」


光平はふんわり笑った爽子をちらっと見た。この笑顔が見られるようになったのは最近。

それは ”仙台”を話題に出した時だ・・・と思い返すと光平は自然に胸がちくりと傷んだ。


「爽子!」


その時、会計を終えたと思われる風早の声が背後からした。


「お待たせ!行こうか」

「う、うん」

「じゃ、田口、これからもよろしく!仙台に帰った時、会えるの楽しみにしてる」

「こちらこそ!」


風早と光平は笑い合った。光平は笑いながら、爽子の肩に置かれた風早の手が視界に

入ると、さっと目線を逸らした。



6人は別れを告げ、家路に向かって歩き出した。

それぞれが想いを抱えながら見上げる空には満点の星と満月が輝いていた。









あとがき↓

所々に風早くんの独占欲が見られます〜どうしても私が書くとそうなります。さて、
二人のラブイチャはもう少しだけ見られます。爽子が帰るまでだぁ〜〜〜。
もっと書きたいから爽子をいっぱい仙台に送り込まなきゃ!(笑)
それではまた遊びに来て下さい。

Half moon 16