After Glow 11

オリキャラ主人公、爽風CP揺らぎなし。爽子は新任の高校の保健の先生、風早は大学を
卒業して家業を継ぐという設定。原作高校卒業後のパラレルです。そしてただいま、風早
アメリカ在住中。


☆ 体育倉庫に下着姿で手を縛られていた爽子。助けに来た九条はすべての謎が解けてい
  た。爽子を騙した人物とは・・・? 


この話は ★ After Glow 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 の続きです。













After glow 11















その低い声と共に、九条が放つ怒りのオーラを目の当たりにして背後で震えあがってい
る人物。それは岸部だった。青白いひょろっとした小さな体をさらに小さくして言った。


「な・・何もしてない。ただちょっとアルコールを紅茶に入れただけでっ・・」
「酒?」
「こ、こんなに弱いなんて知らなかったんだ」
「・・・この格好は?」
「それは・・・」


それ以上、答えられない岸部に眼光鋭く九条が言った。


「俺を陥れるため・・だろ?」


岸部は肯定も否定も出来ずにただその場に佇んだ。すべての計画が崩れた今、なす術が
ないとばかりに項垂れるしかなかった。


九条は電話を受けた後、完全に自分を失って家を飛び出していた。こんな自分は信じら
れなかった。まさに居てもたってもいられないというのはこのことだ。でもはたと気づ
く。やみくもに走っても何の解決にならないことに。そして冷静になった九条は道の真
ん中で立ち止まると頭をフル回転させる。先ほどの電話の声・・口に布を覆っていたが
聞き覚えはなかった。
”黒沼と俺のことを知っている奴、あの写真・・・”
それは少し前から気になっている悪意のある視線に違いなかった。その時横のコンビニ
が目に入る。


「そこで気づいたんだよ。お前かもってね」
「っ・・」


悔しそうに岸部は唇を噛んだ。夜の体育用具室に九条と爽子と岸部3人。本来ならば、
九条がこの場所に爽子を助けにやって来た時に岸部は姿を現さない計画だった。下着姿
の爽子と九条が接触した時に決定的な写真を撮ることが目的で木陰に隠れていたのだ。
しかし九条の方が上手だった。その計画に気づいた九条は岸部の背後に回りこんでいた
のだ。小さい頃から武術を叩きこまれていた九条に腕を取られひねられると一発だった。
それ以上に九条を見た瞬間、岸部はすっかり怖気づいていて無抵抗だった。


「元々お前の顔も名前も知らなかったのに見事に売り込んでくれたよな」


その言葉に岸部はビクビクッと体中を硬直させる。


コンビニを通ったのはただの偶然だった。そこに結び付いたのも勘でしかない。
先月のこと、たまたま九条はコンビニで岸部が万引きするのを目撃した。名前も顔も知
らない男に関心を示さなかった九条だが、相手はそうではなかった。九条の顔を見てい
かにも青白くなっていた。それで初めて学校の奴だと気づいたぐらいだ。


「・・でも、なんでっ・・僕だと」


硬直しながらも岸部は必死で抵抗するように言った。


「それは、この人が全部教えてくれたよ」
「!!」


岸部が九条が指さした方向に視線を向けるとそこに暗いオーラを漂わせた人物が立って
いた。岸部はハッとして目を見開く。


「田島先生!!・・どうしてっ」
「・・・」


田島はバツが悪そうに俯いたまま顔を上げない。


「大人って汚いよな。つまり・・お前は利用されただけだ」
「え・・?」


ずっと感じていた悪意のある視線。実は思い浮かぶ人物が一人いた。数学教師の田島だ。
自分のことを良く思っていないことに気づいていた。
岸部と廊下ですれ違った時、名前も知らなかった男が自分を怯えるように見る視線に気
づき軽く目で追ったところ、田島と一緒に教務室に入って行ったのを思い出した。


(岸部と田島・・・)


九条はコンビニの前で立ち止まり、頭の中で二人の名を呟くと、山野井にすぐに電話を
かけた。


『山野井先生、数学の田島先生が気にかけてる生徒って誰でしたっけ?』
『なんだ突然?どうした?お前が他人を気にするのは珍しいじゃないか』
『時間がないんです。説明は後で・・とにかくお願いします』
『なんか深刻そうだな・・まぁ、いっか。”岸部”だよ。いつもお前の下にぴったりと
 くっついている学年二位の優等生だよ。田島先生のお気に入りってよく知ってるな?』
『田島・・連絡先分かりますか?』
『ちょっと、それはさすがに九条でもマズイだろ『−んなこと言ってられないんです』』
『!!』


切羽詰った状態を感じ取ったのか、しばらくの間の後”今回だけな”と言って山野井は教
えてくれた。こう言う時山野井という人の深さを知る。人を見る目をしっかり持ってい
ると。俺が悪用しないと信用しているのだ。九条は礼を言うと急くように電話を切りそ
のまま方向を変えて走り出した。


「つまり・・田島は俺に恨みを持っていたというわけだ。・・というか俺の親父にかな。
 だよな?田島せんせー」
「えっ・・?先生?」


田島は青くなったまま俯いている。驚愕している様子の岸部に九条は続けた。


「田島は前校、有名な進学校にいた。次に赴任してきたのがここだ。勝手に左遷させら
 れたと思ってる。その時の教育委員会に関係していたのが俺の父親というわけだ。こ
 っちはいいメーワクだけどな。・・・お前のことを贔屓にしてたことも最初から計画
 的だったんだよ。」
「な・・なぜ?」
「お前が俺を目障りだと思っていることに気づいていたからだろ」
「・・・」


しばらくの沈黙の後、岸部が口を開いた。


「でも、利用って・・」
「・・今回の犯行を全部お前に押し付けようとしてたからさ」
「えっ・・??先生、そんな嘘でしょう。僕、先生のこと信用して・・っ」
「・・・」


計画的に爽子に近づいてここまで持っていき、九条に電話を掛けるのは岸部、この日に
用務員に他の仕事を誘って現場を整えるのは田島の役割だった。だから九条が家に電話
した時に田島は学校に居た。そこから田島は九条の誘導尋問に簡単に引っかかったとい
うわけだ。すべて表の行動は岸部にまかせて田島は顔を出さないはずだった。何かボロ
が出た時も、岸部に全て押し付ける気でいたのだ。


「先生っ・・・っ!!」


目を合わさず無言の田島にすがるようにワイシャツを掴んだ岸部は脱力するようにその
場にしゃがみ込む。そしてうぅ・・っと嗚咽を堪えながら想いを吐き出し始めた。


「・・壊れそうだった。母親にいつも”九条慧”の名前を出されて・・っどれだけ努力し
 ても九条に勝てない。九条は努力している様子もなく表情も変えずにいつも首席で。
 だから・・ほんの出来心だったんだ。あの日、コンビニで万引きした時、不思議なほ
 どスッキリとした」


”まさか見られるなんて・・”と岸部は弱弱しく笑みを作った。一番見られたくない相手
だったのだろう。


「九条さえいなくなれば・・って。その時裏庭で養護教員と九条が楽しそうに話している
 のを見たんだ。”これだ”って・・やっと高い鼻をへし折れるって」


岸部は開き直ったかのように本音を漏らす。九条は表情を変えずに岸部を見つめる。


「・・・毎日、毎日、有名大学のことばかり。僕は大学にいかないと母親にとって価値
 のない人間かと思ったら勉強にも身が入らなくなってきて・・っ」


すると九条はふっと寂しい笑みを浮かべ密かに”分かるよ”と言った。


「え?」
「ま・・黒沼も無傷だったし、今回のことはあんた達が自分たちで考えればいい」
「え?警察に・・突き出さないの?」


田島と岸部は驚いたように九条を凝視した。


「面倒だからさ。でも・・・」


九条は優しい目で爽子を見つめた後、冷たい目を岸部に向けて言った。


「黒沼の気持ちを弄んだことは許さない。自分が危険に侵されているにも関わらずお前
 の心配していたんだ。守ろうと・・必死だったんだよ」
「・・・・」
「こんな人もいると思ったら、世の中捨てたもんじゃないだろ」


九条はそう言い残して爽子を抱き上げるとそのまま去って行った。その時の九条の目が
優しく感じて岸部は呆然として動けなくなった。



その数日後に田島は自ら辞職願を提出していた。




After glow 12 














あとがき↓
とりあえずくさい芝居はここで終わり。次はサスペンスからラブへ!風早は相変わらず
いないけど(笑)