「Once in a blue moon」(73)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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☆昨日蓮が麻美に会いに来た。その時の出来事。麻美目線から始まり、蓮目線へいきます。 













『別れよう』


私はずっとその言葉を待っていたような気がする。蓮からそう言われた時、ホッとし
ている自分に気づいた。いつ言われるのか苦しみ続けていたのだから。
蓮をやっと解放させてあげられる。私の苦しみよりもっと苦しんでいる蓮に私が出来
ることは一つだけだった。



別れさせてあげること





・‥…━━━☆ Once in a blue moon 73 ‥…━━━☆









蓮にそう言わせるように仕向けたのは私。蓮から別れようと言って欲しかった。そう
しなければ終われないような気がした。
追い詰めて追い詰めて、蓮を苦しめて、がんじがらめにして・・・それでも最後に私
を選んで欲しかった。だって、これ以上自分を偽ることは出来なかった。心の奥底に
押し込めた想いを抱えて蓮と一緒に生きていくことは辛すぎた。


『うん・・そうしよう。今までありがとう』
『・・・』


あっさりそう言って、私は蓮を中に入れることもしなかった。暗い表情のまま蓮は俯
いた。私はそれ以上望んでいなかった。どれだけ追い込んでも蓮は私に本音を見せる
ことはないと仙台のあの夜に悟った。頑なに蓮が守り続けているのは全部、爽子さん
のため・・・そして風早さんのため。二人への愛情に比べたら私の存在は屑のように
思えた。星屑のようなきれいなものではなく、ただのゴミのような屑・・・
私は蓮をもう一度見ることもしないでドアを閉めようと思った。すると、微かな蓮の
低い声が聞こえた。


『ずっと一緒に居たいと・・・思ったんだ』


その声があまりにも哀しそうで、私は固まったように蓮を見つめた。俯いたまま蓮は
続けた。不器用で、自分のことを話すのが苦手な蓮が一生懸命伝えようとしている言
葉は純粋で・・・嘘偽りはない。そんな気がした。


そしてやっと向き合ってくれていると感じた。


『俺にもこんなに欲があったんだと思った。分かっていても離せなかったんだ』


私は蓮を部屋の中に促した。今、きっと本音で向き合えると感じたから。ずっと望ん
でいたこと。本当の蓮が・・・そこに居た。
私が知りたかった答えは、”別れる”という代償と引き換えに知ることが出来た。


『麻美の言う通り・・・俺は、ずっと黒沼爽子という人に惹かれていたんだと思う』


どくっ


と大きく心臓が動いた。その時、私はショックと言うより不思議なのだが喜びの方が
大きかった。やっとだ・・・と思った。蓮が自分に正直になるのを恐れながらもずっ
と待っていたのだと思った。最後の最後まで本音を出すことはなかった蓮。
それほど守りたかったものは?


『うん・・』


私は穏やかな気持ちで相槌を打つ。
今、私もやっと蓮と同じ目の高さで話ができる。
もし、私が男ならあなたの苦しみを分けてもらうことが出来たのに。
彼女じゃなければ苦しめることはなかったのに。


『全部・・気持ち聞かせて』


蓮は静かに目を閉じた。しばらくそのまま沈黙が続く。でもその沈黙が心地良いと感
じた。どうして別れ話の日にこんなに穏やかでいられるのだろうと思う。いや、今だ
からこそなのかもしれない。そんな私の空気を感じてか蓮ははぐかすことなく、私に
打ち明けてくれた。


『無機質いることが当たり前だと思ってたんだ』


さいころからそうだから。と蓮の長い話は始まった。麻美は冷静な目で蓮を見つめた。



* *



気づいたら麻美の家に向かっていた。あれだけ傷つけておきながら俺はまだ手放せな
いのか、と自分の勝手さに嫌悪感いっぱいになった。


そう・・手放せなかった。最後まで俺の嘘に付き合って欲しかったんだ。


自分のことを話すのは苦手だった。俺を理解してくれようとしているが心底は相手の
欲が見えてしまうからだ。そんなもの見なければいいのに。
ゆづのことが分かってしまうのはそんな自分を知っていたからだ。見なければいいの
に人間の醜いモノを感じてしまう。ガキの頃からそうだった。だけどゆづは俺とは違
って暖かい家庭がある。だからこそ人間の汚さに出会ったとき受けれるのが怖いのだ。
なぜなら、あの場所はきれいなもので満ち溢れている。


純粋で汚されない真っ直ぐな心。


麻美にも自分にはない純粋なものを感じていた。だから惹かれたのかもしれない。
でもその前に出会ってしまった。


『・・あの夜、乾ききっていた俺の無機質な心に水を注がれたんだ』




全部出してもいい。きっと麻美は受け止めてくれる。
そんな風に思うと、心の枷になっていたものが消えていくように感じた。信じようと
しなかったのは自分。皆心から手を差し伸べようとしてくれていたのに・・・





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あとがき↓

もう少しいけるかも・・・っ!