「名前」


サイト三周年記念なんて恐れ多いお祝いに「すいの部屋」の管理人、翠さまからお話
を頂きました。あとがきでそのことについてはゆっくりと語るとしてまずはとっても
素敵なお話を是非読んで下さい。爽パパのお話です。以下からどうぞ↓ 























「名前」








「あ、こんにちわ!お邪魔します!」



丁寧に挨拶をする青年……いや、まだ少年だろうか
きっちりとしたその姿には誠意もあって嫌な気にはさせたない


親御さんの躾が行き届いているのだろうと感心さえする



「いい子ねぇ、イケメンだし!」

「なっ、男は顔じゃないぞ!」

「ふふ、お父さんだってそう思ってるでしょ?
 あ、爽子〜ケーキ持っていきなさ〜い」



母さんは嬉しそうに娘に声を掛けた


娘の彼氏


父親としてやりきれない
いっそのこと反対出来るほどに嫌な男とか悪い男ならよかったのにとさえ思う



「黒沼、俺持つよ」

「風早くんはお客さんなので!」

「いいの、俺の特権でしょ?」



いい子だ
本当に
悔しくなるほどに


娘の彼氏としては上出来過ぎる




あれ?
そう言えば



「ごゆっくり〜」



母さんが二人を見送って此方を向いた
俺を見るなり少し呆れ顔



「お父さんってば、そんな顔して〜
 風早くんいい子でしょ?
 爽子だって嬉しそうだし」



そんな顔とはどんな顔だ?
呆れ顔される程?



いやいや、そんな事よりも……


頭に浮かんだ疑問が抜けない



「母さん、」

「な〜に?」

「あの二人は……その〜……
 ま、まだあの呼び方なのかい?」

「え?呼び方?
 あー、“黒沼”“風早くん”って?」

「う、うん、あの二人もう一年以上なるだろ?」

「ふふ、そうね」



名前の呼び方なんて気にもしていなかったけれど
一度気になってしまうと離れない


そして……



「嬉しい?」

「え?いや……」



母さんに聞かれた言葉に戸惑う


図星……


そう、嬉しい……のだ
なぜだか


まだ爽子が自分達の娘なんだと
そんな気がしたんだ



「そ、そうか、そうか!
 母さん!風早くんも夕飯に誘ったらどうだ?」

「ふふ、そうね!(ゲンキンなんだから!)」



母さんの返事を聞いて娘の部屋に向かった
我ながらゲンキンだと思う


ドアの前でノックをしようとした時、中から声が聞こえてきた



「お父さんもお母さんもほんと、優しいよな〜」

「風早くんのお父さんとお母さんだって!」

「父ちゃんはゲキレツだからなぁ」



ゲキレツ?
なんだ、それは?



「きっと……だからなんだよな」

「え?」

「……爽子が優しいのは……」

「……翔太くんだって優しいよ」

「はは、俺はダメ、嫉妬するし、ワガママだし、自分勝手!」

「い、いいの!ワガママでも自分勝手でも!
 翔太くんだから……」

「爽子……ありがとう」



ノックをしようとした手をそのまま引っ込めた



音で言うなれば“トボトボ”?
きっとそんなところだろう



「あら?お父さん?風早くんはなんて?」



なんて?



“爽子”って呼んでたよ


爽子も彼の事を“翔太”くんって



「やだ!お父さん?泣いてるの?」



泣いてるのか俺は
悲しくて?



確かに悲しい


だけど、何だろう……この気持ち



「か、母さんは知ってたのかい?」

「なにを?」

「二人が名前で……」

「あら、聞いちゃったの?それで泣いてるの?」

「……」

「目の前では聞いた事無いのよ?
 私もお父さんと一緒
 部屋の前で聞いたの
 あの二人、二人になったら呼び合ってるみたいね」

「そうか……」

「私たちへの気遣いかなって思ってるのよ?」

「え?」

「だって、泣いちゃうでしょ?」



“現に泣いちゃったし?”なんて
からかうような、そんな言い方に
不思議とどんどん気持ちが晴れていく



「お父さん、」

「なんだい?」



ティッシュで涙を拭きながら答える



「悲しいから、だけじゃないでしょ?」

「え?」

「娘が遠くに感じちゃうのもあるけど……
 私は嬉しかったのよ」



そうか……



さっき感じた涙の意味



悲しい、確かに悲しいのもある
実際、嬉しかった分その反動も大きかった


大事に大事に育てて来た娘だ



でも、聞こえて来た声は幸せそうだったから



「さっ、涙ちゃんと拭いて!二人に笑われるわよ?」



そう言うと母さんは“爽子〜!”と上に向かって呼んだ



階段を挟んで二人で話をする様子にまた目頭が熱くなる



「俺たちだけの特権だと思ってたんだけどな」



そう呟きながら、
あやねちゃんも千鶴ちゃんも呼んでたな、と思い出した



そうか、もうとっくに特権じゃなかったんだな





よし、今日はとことん風早くんを困らせてやろうか!
















あとがき↓
思いがけない翠さまからのプレゼントに驚きが隠せませんでした。嬉しくって!!
そしてこんな素敵なお話を頂けるなんてうるってきました。パパ話はいつもうるって
きますよね。黒沼家って本当に爽子を大切にしているのが分かるから温かくなるって
いうか。でも何より萌えたのが名前呼びですね。二人でこそっと呼んでるんですよっ
ね♡萌えるでしょ。娘ラブな父親はその光景を目の当たりにするとやっぱショックか
なぁ〜と思いました。複雑ですよね。娘が笑って幸せなのは嬉しいのになぜか心にポ
ッカリと穴が空くような寂しさ。でもそういうのも大切に育ててきたからこそ味わえ
るものなんでしょうね。キミトドの良さはそういうところだと思います。改めてキミ
トドの素晴らしさを再確認させてくれた翠さま!本当にありがとうございました。
翠さまのサイトに行けばこんな素敵なお話盛りだくさんですよ〜♪ぜひぜひ(´ε`*)
翠さま、同じキミトドハマり同士として、これからもよろしくお願いします。