「Once in a blue moon」(33)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 の続きです。  


☆ 昌の心情を聞きながら自分を見つめ直す麻美。そして別れ際、迷いながらもずっと心
に引っかかっていることを昌に告げるが・・・!?






















本当の蓮を探している

どんな蓮でもいい。全部好きになる

全部受け止めたい

初めて知った本当の恋


でも


好きになればなるほど寂しくなる

一緒に居るのに寂しい

こんな気持ち、全部初めてだった





・‥…━━━☆ Once in a blue moon 33 ‥…━━━☆


















「ここだ・・・」


次の日、麻美はある町に来ていた。観光地でもないこの町で地図とにらめっこして、

不審な動きをしていた自分に気付いて焦ったようにそれとなく周りを見渡す。平日の

昼間ということで主婦らしき人が通り過ぎる。


(やばっ・・不審者で訴えられそうっ)


麻美は平然を装い、目的地に足を進める。住宅街を抜けると小さな商店や小さな会社

が並んでいた。

本当は蓮の実家とか、通学路だったところとか、学校とか見たいところは山ほどある。

実際、昌さんが滞在中に連れて行ってくれると言ったが断わった。なぜならそれをす

るといかにもストーカーだ。いつか蓮が案内してくれる。そんな夢を信じたい気持ち

もある。


昌さん・・・。




* * *



”『私・・・美穂さんに会いたい』”


私がそう言うと昌さんはしばらく黙った後、” それは無理”と言った。美穂さんの妹

さんである沙穂さんが許してくれないと。美穂さんの病気の経緯を聞くとその理由は

十分納得できた。昌さんも沙穂さんの相談役にはなるけど美穂さんには会っていない

らしい。私の立場を言うつもりがないことを話したが昌さんは首を縦に振らなかった。

外的刺激はできるだけないほうがいいに決まっている。でも私も引き下がれなかった。

”自力で探そう!”と心に決めた私の決意がダダ漏れしていたのか、その姿を見かねた

昌さんが別れ際にこそっと耳元で言った。


”『○○町の△で働いているって・・・偶然なら仕方ないんじゃない?』”


私は胸が熱くなった。昌さんが私を通して自分を見ているとしたら・・・妙に気持ち

に応えたくなった。


『・・・ありがとうっ昌さん!』


思わず昌さんの背中に向かって叫んでいた。昌さんはちらっと後ろを振り向いて照れ

笑いをすると、そのまま去って行った。



* * *



「よしっ!」


麻美は気合を入れて歩き出した。


昌さんに出会えて良かった・・・爽子さんに出会えなかったら会うこともなかった。

麻美は爽子の笑顔を思い浮かべると穏やかな顔で微笑んだ。


(あぁ・・会いたいなぁ爽子さんに)


ここに爽子さんが居てくれたらどんなに心強いだろう。でもできない。もしかして、

正直に聞いたら答えてくれたのだろうか?美穂さんのことをもっと。一体爽子さんと

美穂さんはどこまでの知り合いだったのだろう?そして、美穂さんはどんな人なんだ

ろう・・・。


本当は会うのが怖い。蓮と恋愛関係だった人なんて見たくない。でも・・・見たい。

真逆な感情が私の中で混在している。

昌さんは爽子さんのところに行くのが怖かったと言っていた。でも行かないといけな

いと思ったと・・・。私もそう。見なければいけないような気がした。前に進むため

に来たのだから。それに正直、話せるなんて思っていない。ちょっと見るだけ。


そう、ほんのちょっと・・・。


そんな臆病な私に、やはり見えない何かに導かれているのかと思える偶然が用意され

ていた。


でもすべて偶然だと思っていたことは必然なのだと、仙台の旅を終えた頃、私は悟る

ことになる。


悲しい必然だということを・・・。



* * *



麻美はきょろきょろ周りを見渡しながら歩いている時に壁に貼られた一枚のポスター

に目を奪われた。


「へぇ・・・仙台七夕祭りか・・・有名だもんね」


それは季節外れの七夕祭りのポスターだった。きっとはがし忘れのポスターだろうが、

冬に近づくこの季節に異様な存在感を放っていた。

麻美は思った。この七夕祭りを蓮は毎年どんなふうに過ごしていたのだろう?普通の

日常と共に側にあるものなのだろうか。そのポスターの記載にある花火という文字を

見て思わず想像した。花火を蓮と一緒に見る姿を。そう言えば今年の夏は付き合い始

めたのに行けなかった。


(・・・妄想がっ///)


「あぁ・・蓮と来たかったなぁ」


麻美は別れたわけでもないのに、妙に傷心旅行のようになっている自分に苦笑した。

その時、路地裏で何やら男女がもめている姿が目に入った。いつの間にか人気のない

場所を歩いていた。


「いーじゃんっ。ちょっとお茶だけだし」

「っ・・・や・・・」

「変な奴じゃないし、俺ら。ちゃんと社会人だしさ」


(・・・・)


見ないフリをしよう。こういうことに関わるとロクなことがない。それに私は目的が

あるのだから。


(ちゃんとした社会人は今頃働いてるって・・・)


麻美はその場をささっと通り過ぎようとした。でもすれ違いざまに女性の怯える目と

視線を合わせてしまった。


(う”っ・・・っ)


自分は損な性格だと思う。平穏に生きたいと思っているのになぜかこういう場面に巻

きこまれ、冷たい性格なはずなのに実は・・・放っておけないこの性格を呪う。

麻美は男たちに向かって冷たく言い放った。


「ちょっと、その人嫌がってますよ」

「! なに?友達?・・・・おっ美人さんじゃん♪」


すると、一挙に関心がこちらに向いた。2,3人の欲求不満っぽい男たちが麻美に近

づいてくる。麻美は思わずじりっと後ずさりした。派手な服でアクセサリーをやたら

と身に付けている男たちは間近で見ると思ったよりタチが悪そうに感じた。


「ど〜〜も・・・それじゃっ!!」

「!!」


自分の直感は当たることが多い。この男たちと話し合ってもややこしくなるだけだと

感じ、麻美は瞬間勝負とばかりにさっとその女性の手を取って走り出した。無我夢中

で走った。男達の恐ろしい形相を見ないようにしてとにかく人の多いところに出る。


(はぁはぁ・・・何でこーなるのっ!!)


麻美は自分の性格を呪いながら走り続けた。そしてショッピングセンターの前まで行

くと後ろを振り返る。肩で息をしながらやっと安心できるとばかりに身体を折り曲げ

て脱力した。


「も・・・だいじょーーぶですよ。はぁはぁっ」


強く掴んでいた手首を離し、後ろの女性を見るとその女性はかなり真っ青になり今に

も倒れそうだった。そしてその後、儚げにしゃがみこんだ。まるで花がしおれるように。


「うわっ・・・大丈夫ですか??」

「だ・・いじょう・・ですっ・・。走るとか・・しなかったので」


息切れ切れに苦しそうに話す。確かに細くて白くて運動とは無縁のような少女のよう

な女性だった。ちらっと目線を上げて微笑む彼女に私は思わずドキっとした。


(うわ・・・きれーな人)


栗色に長いカールがかった髪がお人形さんのようだった。後で年を聞いてぶっ倒れそ

うになったのだが、深層の令嬢のような人に初めて出会い衝撃的だった。しばらくし

て彼女はゆっくりと立ち上がった。まだがちがちと震えている。


「無理しないで・・・救急車呼びましょうか?」

「もう・・・大丈夫です。私・・・あまり人が得意じゃなくてっ・・」


それは分かった。さっきのナンパ野郎に怯えていた。


「と・・・ころで、ここはどこですか?」

「えっ??こちらの人じゃなかったんですね?」

「ううん、ここの人だけど」

「??」


深層の令嬢は思ったより天然で思ったより・・・世間知らずだった。私もこの土地を

知らないので焦りながら周りを見渡す。なんとか手掛かりを見つけ、彼女は携帯で誰

かに連絡を取って迎えに来てもらうことになった。その電話っぷりを見ていても思っ

たけど、やっぱおじょーなんだと。外にあまり出たことないのか・・・?


(今時のおじょーもこんなの??)


私が頭の中で「??」を重ねていた時、彼女がぽつりと話し出した。


「私も22歳まではちゃんと社会人してたんですけどね」

「えっ??22歳って・・・今何歳なんですか?」


(やばっ・・・・直球すぎたっ)


驚きのあまり初対面の人に失礼なことを聞いてしまったと焦っていた私に彼女は特に

表情も変えずにきょとんっとして言った。


「31歳だけど?」

「!!」


開いた口が塞がらなかった。汚れを知らない少女に見える女性は私より年上だった。

でもその後の話を聞いて少し納得した。素材がそうなのだろうが素材以外にも環境が

大きく影響しているように思った。


「私・・・病気をしててあまり外に出てないの。だから今も会社と家の往復で。

 さっきは会社の近くをちょっと散策しようとしたんだけど・・・」

「・・・そうだったんですね。大変ですね」


何が大変かと言うとすぐにナンパされそうで、ということだったのだが言葉足らずだ

った。私が言い終えた後、彼女は少し顔を歪ませた。


(−しまった!!)


「・・・大変だけど・・・っ頑張るの。誓い合ったから・・・」

「?」


幸せそうに微笑んで言った彼女の言葉に息をのむ。


(・・・え?)



私はやはり運命の女神に導かれているのだろう。



そう思えるほど一気にこの旅の核心に触れる出会いをしたのだと・・・最後の言葉

を聞いて気づくことになる。



「・・・蓮と」




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あとがき↓

美穂の設定には少し悩みました。なぜかと言うと美穂は爽子に関する記憶を全てなく
している設定で考えていたので。だからすべて推測で話を進めようと。つまり面倒だ
ったからなんですけどね(汗)書きたいことだけ書こう!では納得しませんよね。
美穂に関しては麻美仙台編で解決できるようにしたいと思います。しかし・・・この
展開、爽子と会った時と似てるわ・・・ワンパターンお許しを(-_-X)