「Cresent moon」 4

オリキャラ投票企画&リクエス

光平完全主人公の話です。はい、あくまでスピンオフではございません(笑)
光平の名誉のために(?)番外編にもしません(笑)

物語は光平が北海道に来て1年後の話です。(Half moonで95話から96話の間の話)

この話は「Crescent moon」1 2 3 の続きです。


風早と思いがけなく向き合うことになった光平はあの夏の出来事の真実を知る。しかし

まだ自分の問題として捉えられなかった。



























〜 Crescent moon Epi 4 〜













* * *


あれから風早と別れて仕事に戻った。あいつはまだ彼女を想っている俺を責めること

はなかった。それは彼女を信じたいという表れのようだった。余程あの夏がつらかっ

たのだろう。


「はぁ・・一足遅かったか」


その日は直帰してもいいことになってたけど、何か気になって会社に戻った。でも退

社時間に微妙だったので彼女に会えなかった。


「光平〜今日は直帰で良かったのに」

「あ、はい。まとめたい資料があったので・・・」

「お前熱心だな〜先帰んぞ」

「はい、お疲れ様でした」


部署に最後に残っていた先輩の同僚が去って行った。光平は項垂れるようにデスクに

うつ伏せる。


(はぁ〜〜〜っ)


「あ・・・田口くん?」

「えっ??」


がたっ


「わっ!!」


俺は慌てて椅子から落ちそうになる。必死で堪えた。


「大丈夫??」

「大丈夫っ・・・あれ?黒沼さん帰ったんじゃないの?」

「ううん・・今日は大幅な遅刻をしてしまったので、その分のお仕事が残っていま

 して・・・ちょっとお茶を入れに行ってました」

「え・・・そんなの」


”いいのに・・・”という言葉を飲み込んだ。彼女らしいと思ったから。


「あの・・・」

「え?」

「今日は・・・わざわざありがとう」


振り向くと彼女がはにかんだ顔で微笑んでいた。

大分自然になった笑顔。それは俺との関係が深まった証拠。でも彼女は知らない。

その笑顔に俺がまだ胸を痛ませていることを。


どくんっ


まだこんなに胸が疼く。諦めたはずなのにひょんなことから自分の気持ちに気づくんだ。


(・・・っとに俺って諦め悪い)


「もう何ともないの?」

「う、うんっ全然平気ですっ」


彼女はそう言って何ともないと示すように元気ポーズをする。


(あぁ・・・かわいいなぁ。くそっ)


光平は爽子から視線を逸らし、デスクの書類を整理しながら話を続けた。


「風早に会ったよ」

「うんっ・・・」

「あの夏の・・・話しした」

「あの夏?」

「うん、風早といろいろあった時のこと」


俺は彼女の心を探るようにちらっと横目で見た。彼女は哀しい目して黙り込んだ。

風早だけでなく、黒沼さんにとっても大きな出来事だったんだと分かる。


「あっ・・・ごめんっ掘り返すようなことして。思い出したくないよな」


すると彼女はぶんぶんっと頭を横に振った。そしてゆっくりと語り出した。


「つらいけど・・・忘れてはいけないと思っているの」

「・・・・」


不思議な日だった。彼女を諦めないといけないと思ってから半年、こうやって向き

合うことはなかった。風早と彼女と、あの時の話をしている。


光平は椅子にそっと腰を下ろした。


「あの時・・・風早に嘘をついたこと?」


すると彼女は瞳を大きく見開き、ゆっくりと視線を下に向けてぎゅっとスカートを

握る。つらそうだけど、どこか凛としている彼女に心臓がどくんと動いた。


「ううん・・・それより大切なこと。私、風早くんを傷つけたの」


その後、彼女が言った言葉にハッとした。彼女の瞳は遠くにいる風早ではなくて、

真っ直ぐ俺を見ていた。


「そして・・・田口くんを傷つけたこと」


俺は言葉が出なかった。


(俺を傷つけた・・・?)


彼女は瞳をだんだん潤ませる。


「私、いろいろな人に助けてもらったの。一人では気づくことができなかった。どれ

 だけ自分の鈍感さが人を傷つけていたかを・・・」

「・・・・・」

「私・・・田口くんの想いに気づかずに田口くんの好意に甘えていたの。そのことが

 風早くんを苦しめたし、田口くんも・・・」


(あ・・・そうなのか。風早が言っていたこと)


「あの夏、風早が誤解したんだよね。俺と黒沼さんのこと」

「・・・うん。私、風早くんがそのことで苦しんでいることをこれっぽっちも気づか

 なくて、隠し事をしていることに自分が苦しんでいたの」

「・・・・・」

「でも、真実はそこになかった」


どくんっ


「・・・俺が原因・・・」


彼女はハッとした表情で俺を見上げて、ぶんぶんっと頭を横に振る。


「違う・・・違うよ・・・全部私が悪かったの。本当にごめんなさい」


そう言って彼女は何回も謝った。でも謝られば謝られるほど傷つくことを彼女は知ら

ない。なぜならまだ気持が残っているのだから。


俺はあの夏の彼女を思い浮かべる。声を殺して泣く姿はどこまでも儚げで・・・。


”『・・・あの夏、彼女を思いっきり傷つけたじゃん』”


あの時誰よりも彼女を傷つけたのは・・・俺なのか?


どくんっ


大きく心臓が脈打った。小さな彼女がさらに小さく感じる。彼女には幸せになって欲

しい。それは紛れもない本心だ。だけどあの夏の出来事を知ってもなお、彼女が欲し

くて二人になるとつらくなるのも本音だ。


俺の存在がなければあの夏の出来事はなかったかもしれない。彼女につらい思いをさ

せたことは胸が苦しい。でも俺はまだ分からなかった。彼女を傷つけたということは

どういうことなのかを。


そして、この日の俺はおかしかった。

後から思った。こんな夜に彼女に会うべきではなかったと・・・。


光平は握りしめている拳をさらに強く握った。


ぎゅっっ


「・・・そんな想いをしておいてまだ分からないの?」

「え・・・?」


ヤメロッー


心の中で必死に叫んでも、もう一人の自分が暴走した。


俺はまるで張っていた糸がぷっつんと切れるように吐き出し始めた。この半年間こん

な風には思ってなかったのに。何言ってんだろう・・・。俺の荒んだ目に彼女は怯え

たように佇んでいた。


「何も変わってないじゃん。何で俺にそんな話すんだよっ。やっぱ・・・黒沼さんは

 鈍感だよ」

「・・・・」

「その笑顔で十分俺を傷つけてるから」


これでもう今までの関係でいられない。俺はそれを望んでいたのだろうか。大きな目

を見開いて身動きできない彼女を真っ直ぐ見て言った。


「俺にもう・・・優しくしないで」


がちゃっ


彼女と出会った意味を見つけられずにいる。その時俺は、可能性のない恋をしてしま

った自分が可哀そうでたまらなかった。





<つづく>



「Crescent moon」5 へ












あとがき↓

えぇ〜〜光平が暴走し始めた(汗)こんな話じゃなかったぞっ!6話ぐらいで終わんな
いじゃん。本当に不思議なんですが、自分の思っていた話と違ってくることってあるん
ですよ。特に「Half moon」はそうで。こんな話でよければお付き合いください。とこ
ろで15巻買いました。続きで見るとやっぱいいもんですね。なんか流れが分かるという
か。コラムでカルピンせんせが書いてましたが、前巻で「気持ち的には終わりに向かっ
てる」と書いたことにやはり反響あったようですね。そーですよ。キミトド萌え方はみ
んな反応するってば、せんせ。でもまだ続くようで良かったです。終わったら寂しすぎ
るもんなぁ〜〜〜(*´д`*)