「Once in a blue moon」(15)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは「Once in a blue moon」1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 の続きです。 


☆ 蓮にどんどんのめり込んでいく麻美。好きになればなるほど気になってしまう
  蓮の過去だが・・・?


















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 15 ‥…━━━☆













********


「お」

「あっ」


会社を出たところでたまたま川嶋蓮と会った。会社では殆ど関わらない私たちだが、

その日のお昼を一緒にすることになった。


がらっ


「いらっしゃいー」


この店は私のお気に入りの店で、川嶋蓮の笑顔を初めて見た場所。麻美はあの時のこ

とを思い出した。携帯を見て嬉しそうに微笑んでいた蓮。今から考えると、ゆづちゃ

んの写真を見ていたのだと思った。


「うまいっ!」


蓮は日替わり定食の生姜焼きを美味しそうに口に頬張りながら言った。付き合ってか

ら知ったのだが、結構グルメでいろいろな店を知ってる。転勤してきたとは思えない。

そして外食が多いという彼にご飯を作りに本当は行きたい。だけど、家に呼んでくれ

ない彼にどうしても言えなくて・・・・。


「ん?」


彼は私の視線に気づいて、バッと顔を上げた。視線が合うとドキッとする。自然に見

つめていたらしい。

以前よりよく喋るようになった川嶋蓮を嬉しく思う。心を許してくれているのかなって。


(・・・それだけでいっか)


「いや・・・どうやってこの店見つけたの?私の隠れ家だったのに」

「たまたま惹かれて入った。するとめちゃ旨かった。何?麻美の店だったの?」

「ははっ実はそうなの。なんちゃって。でもちょっと見つけられて悔しかったけど」

「ま、分かるよーな気するけど」

「・・・・・」


そして麻美は黙々と食べ続けている蓮をせつない目をして見つめると、箸をコトッと

置いた。


「ん?」

「・・・・この店で初めて川嶋蓮をちゃんと見たの。今から考えると・・一目ぼれ

 だったと思う」

「え??」


蓮は思わず喉に食べ物が詰まってごほごほっとむせた。


「何だよ急に・・・よく言えるな。恥ずかしげもなく」

「だって本当だもん。私は・・・自分に正直でありたいだけ。好きになったら一途なんだよ」

「・・・・・」


麻美は言った後に恥ずかしくなり、俯いたまま再び食べ始めた。そして蓮をちらっと

見ると少し耳が赤い。


(えっ・・・川嶋蓮が照れてる??)


「・・・か・・川嶋・・・いや蓮?照れてんの?」

「おまっ・・・・口にするなよ」


麻美は口を押えて、蓮を見つめた。


(やばい・・・嬉しいっ)


そして自分も負けじと赤くなっていることに気づいた。熱くてしょうがない。初めて

の顔を見るたびに好きになっていく。好きだから不安にもなる。


やっぱり思ってない。”それだけでいい”なんて・・・・。


麻美はぎゅっと拳を握りしめると緊張気味に蓮を見上げた。


「あの・・・聞きたいことがあるの」

「ん?」


そしてぐっと目に力を込める。


「仕事中なのに・・・ごめん。今聞きたいの」

「・・・・・」

「川嶋蓮の今までの彼女って・・・。いや、どんな恋愛してたのかなって」


二人の間に沈黙が走った。蓮はしばらく麻美を見つめると、伝票を持って立ち上がった。


がたっ


(あっっ)


ドクッ


私は心臓が一瞬止まったかと思った。川嶋蓮は私から背中を向けて言った。


「・・・過去に囚われててもしょうがないだろ?もう時間だ」

「・・・・うん」


麻美はゆっくり立ち上がり、蓮の後ろを歩き出した。


どくんっどくんっ


(さっきまで和やかだったのに・・・聞かなきゃ良かった)


なんだか川嶋蓮の背中が冷たく感じた。きっと彼は私に全部見せることはないだろう。

でも私は感覚的に彼の過去を知らなければ何も始まらないような気がした。

彼を分かりたい。彼を守りたい。でも・・・どうすればいいのか分からない。気持ち

だけ先走って何も出来ない自分にジレンマを感じていた。



* * *



「おいしぃ〜〜〜っなんでこんなの作れんの??」

「嬉しいっ・・・いっぱい食べてね」


麻美は月一の落語鑑賞会の帰り、爽子の家で手料理を食べられるのを楽しみにしてい

た。最近、爽子と麻美は落語同好会にも入ってますます会う機会が増えた。だいたい

その後、仕事を終えた蓮が加わる。この日も遅くに蓮がやってきて4人で遅い夕食を

食べていた。


(ほんと・・・和むわ)


爽子さんの料理は本当に美味しくって爽子さんの純粋で温かい人柄が表れている。そ

んな爽子さんに私も甘えてしまいそうになる。ゆづちゃんのように。それは旦那さん

も同じなのかな・・・とか思った。


「いたっ」

「爽子?どしたっ!?」


爽子さんは旦那さんにめちゃくちゃ愛されている。旦那さんはベタぼれだ。でも、彼

女を知れば知るほど旦那さんの気持ちが分かるようになってきた。高校の時からの付

き合いだと聞いた。そんな昔から彼女を見つけてるんだ。きっと蕾の頃から。


台所の声に、翔太がすぐに反応して駆け付ける。その速さに麻美は思わず唖然・・・

となった。


「ごめんなさいっ・・堅いビニールの袋を開けようと思ったら指が引っかかっちゃって。

 もうだいじょ・・・っ」

「!」


翔太は爽子の指を舐めた。咄嗟な行動に麻美は思わず一瞬目を逸らす。夫婦なら当たり

前なのだが妙に恥ずかしくなった。


「こんな堅い袋は爽子の力じゃ開けらんないよ。どうして俺を呼んでくれないの??」


ぷぅ〜〜っと膨れている翔太は会社では全く見られない姿だった。


(ちょっ・・・過保護すぎるっ)


「・・・・・・」

「はは・・・呆気に取られてる」

「あっ・・・いや、仲いいなって」

「あいつらは特別だから。会った時から全く変わんねーし」


蓮はニッと笑って言った。麻美は再びキッチンの二人に目を注いだ。


あれから風早さんはかなり会社で有名人だということが分かった。周りを見ていなか

った私は知らなかったが、風早さんが転勤してきたころから爽やかで仕事ができる愛

妻家と言われていたそうで・・・。愛妻家というのは家庭のことを一切見せない人ら

しいけど、すぐに帰るところを見るとそうなのかな?と女子社員は噂していた。つく

づく女は鋭い。そして川嶋蓮と二人でいると目立つのが分かる。


(そりゃ、目ぇ引くわ。なんだかんだ言って二人ともイケメンだもんな・・・)


何だろう・・・かっこいいけど、普通にいると言えばいる。例えば川嶋蓮はかっこい

いけど無愛想だし、近づきにくい。でも風早さんは壁がないような気がするんだ。だ

から人気があるんだな。でも好き嫌いは意外とはっきりしているのかな?興味のない

ものは上手く交わしているような気がする。でも爽やかだから嫌味がない。


「何?」

「え??」


キッチンに視線を注いでいた私を川嶋蓮は頬杖つきながら見ていたことに気づき、ハッ

とした。


「あ・・・結婚して、5年過ぎてるって言ったよね・・・?」

「時間は関係ないんじゃね?」

「・・・・・」


どうして変わらない関係でいられるのだろう。子どもまでいるのに。慣れ合いの関係

にならないのが私の理想だった。でも周りのどのカップルを見てもこんな二人のよう

なことはなかった。


「ずっと何もなかったのかな?いくら仲が良くてもさ・・・」


すると川嶋蓮は少しの間の後、寂しげな笑みを浮かべて言った。


「・・・何もないカップルなんてないだろう。二人は遠恋だったしさ」


私はその時の川嶋蓮の目の揺らぎを見逃さなかった。二人が仙台にいた時・・・5年

前、何かあったのだと思った。それは川嶋蓮に?風早さんに?


「・・・仙台で風早さんとずっと一緒だったんだよね。どんなだったの?」

「どんなって?」

「いや・・・二人の遠恋を見ててどう思った?」

「まさに純愛」

「はは・・・だよね」

「大切なものが一つ」


台所の二人を眺めながら川嶋蓮は目を細めて言った。


”大切なものが一つ”


あぁ・・・そうか。風早さんは大切なものがはっきりしているんだ。爽子さんが何よ

り大切で、それ以外のものはいらないんだ。ある意味欲がないと言えるけどそれは、

ものすごく欲深いのかもしれない。究極に一人の人を愛し続けることは・・・。


「川嶋蓮は?」

「え?」

「川嶋蓮は・・・純愛じゃないの?」


麻美は視線を逸らさず蓮を見つめた。入り込もうとすると逃げるのは分かっていた。

だけど知りたい・・・・好きだから。



でも、私は後から知ることになる。求めていた答えが自分自身を苦しませることにな

っていくことを・・・・。




「Once in a blue moon」 16 へつづく















あとがき↓

あっという間に1か月。もうすぐ別マ発売ですね。そしてクリスマス。クリスマス
には何かお話書きたいなぁ。リクエストに兼ねて書こうかな。光平か鮎川千紗か。
ところで”鮎川千紗”のリクエストはもういいですか?


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こんな話・・・・好きですか?(汗)