「Half moon」番外編 ⓫ 「Blue moon」

※ こちらは「Half moon」の中に出てくる、オリキャラの話です。
  蓮の心情が中心になりますので、オリキャラに興味のない方は楽しめません。


人との付き合いに興味も期待も必要以上に持たなかった蓮が初めて興味を持った相手とは??


興味のある方は以下からどうぞ↓





















Half moon」番外編 ⓫  「Blue moon」



★゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・



幼少期からよく人に冷めてると言われていた。皆がはしゃいでいるのに一緒にはしゃげ

なかった。表現が下手というのもあるが、それ以上に人に関心が薄かった。それは家庭

環境も関係しているが、本来持って生まれた性格だと思う。だからと言って、表現豊かな

奴に憧れたりもしない。感情を出して泣いたり笑ったりしている奴を見て、正直 ”大変だ”

としか感想を持たなかった。


そんな俺にも一緒につるむ仲間ができた。もともと誰かと一緒にいるのは面倒だったが、

俺も成長したのか、みんなでワイワイする時間も楽しめるようになってきた。こんな自分

を受け入れてくれる仲間をありがたいとも思ってる。

でも、あいつらはいつまでたっても俺を誤解している。お前らが思うほど、俺はいい人間

でもなければ人に関心もない。自分でも自分が分からないというのに何を伝えればいい

のか。待たれているのが分かるだけにしんどいと感じることもあった。


そんな時・・・・出会った。




『風早翔太です!よろしく』



入社式で隣の席の男はそう言って爽やかに握手を求めた。


きっと誰もが思うだろう。爽やかな奴だって。こんな奴が世の中を明るくするんだ・・・・と

第一印象で何気なく思ったのを覚えている。いつもならそれ以上何も思わない。人に何

の期待もしていない俺は”知り合い”以上の関係を積極的に作る気はなかった。


でもその風早という奴は無理に俺の中に入ってくるでもなくすごく自然だった。

単純に喋っていて楽しかった。目指すものが一緒ということもあっただろう。


俺たちが仲良くなるのには時間はかからなかった。


そして翔太を知るうちにただの爽やかな奴でないのが分かった。翔太はそこにいるだけ

で人に良い印象を与える。それとは逆に存在だけで不快な印象を与える人間が世の中

にはいるようだ。自分がどうだとかは考えたことはなかったが。


ある時・・・


「ここ空いてますか?」

「あ・・・ああ」


社員食堂で翔太はある男の横に座った。別に見る気もなかったけど、後ろの方で食べて

いた俺は嫌でもその光景が視界に入った。翔太の隣に座っていた男は会社内で浮いて

いる存在らしく、明らかに周囲の人が近寄らなかった。そんな中堂々と隣に座る翔太。

そして近くの女子社員が翔太に歩み寄った。


『風早くん・・・こっち!』


小さい声で手招きして言った。


『え?』


翔太がその女子社員の手招きに応じて側まで行くと耳打ちで何かを言われている。

だいたい想像できる。俺は”めんどくせ・・・”と視線を逸らしてその場を去ろうと立ち上が

ると、翔太の声がはっきりと聞こえた。俺は思わず足を止めた。


「それは自分が決めることだから」


そう言って、女子社員ににっこりと笑うと再びその男の横に座って何やら楽しげに話して

いる。俺は思わず目を見張った。俺が面倒だと思うことを風早翔太は面倒くさがらない。

しかも真正面に向かっていく。それが自然にできる男。


それぐらいの頃からか、翔太に興味を持った。付加価値で人を見ない。またカテゴリー

分けとかしない奴。そして信念を貫く強く真っすぐな思いが人の心を動かす。そんな奴

に初めて会った。


こいつには人を引き付ける力がある。俺にはないものだった。


今まで俺とは違う人間なんて山ほど見てきた。それなのに、なんで興味が湧くのだろう。


一体どんな風に育ったんだろう?何か影響を受けて今があるんだろうか?

そして、大事なものはなんだろう・・・。こんなに相手のことを知りたいと思ったのは

初めてだった。自然に俺の中で生まれた感情。


ある時、風早翔太の一番大事にしているものを知った。翔太には高校時代から付き合

っている彼女がいる。社会人になって遠恋の彼女だ。素直に興味が湧いた。


”一体、どんな子なんだろう・・・?”


彼女とメールをしている時、電話をしている時・・・・見ているだけで分かった。どれほど

彼女を大切にしているかを。ますます興味が湧いた。


”どんな子なんだろう・・・・”



そして翔太を知れば知るほど自分の恋愛が恥ずかしくなった


軽蔑されるかもしれないな・・・。


俺はそんなことを考えたとき、自分で自分に失笑した。人に興味がなかったはずなのに。

翔太は特別だ。他の奴らには出せない自分が出せる。


翔太は軽蔑なんてしない。でも・・・心のどこかで俺は負い目を感じていた。



「黒沼爽子です」


夏前のある日、彼女に会った。彼女は緊張してたのかカチカチだった。でも、俺の名前

を知った時、一瞬柔らかい表情で笑みを浮かべた。


「あっ!・・・・は、はじめまして」


間違いなく翔太の彼女だ・・・と思った。


正直羨ましかった。真っすぐ相手を思える男。たった一つ大切なものがあったらそれで

いいのだと思える。それほど大好きな彼女を持っている男。翔太は一生懸命生きていた。

彼女に恥ずかしくないように。いつも輝いていられるように。


俺はそんな想いで人を愛したことがあっただろうか。あんな真っすぐな気持ちを持った

ことがあっただろうか。


俺の中にも人を羨む感情というものがあったらしい。

もう人に対して無関心とは言えない。何の期待もしてないなんて言えない。


翔太と出会わなければ気付かなかったこと。そして知らなくて済んだこと。

こんな出会いは一生に一回あるかないか、奇跡の出会いだった。

それなのに・・・・。



今もまだ、答えが出ないまま自分の中で彷徨っている。



翔太との出会いが必然だと思える日まで、俺はきっと彷徨いつづけるのだろう。



今夜も夜空を見上げる。無機質な心を抱えながら。




いつか蒼い月に出合える奇跡を信じて・・・。







<おわり>

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あとがき↓

番外編は終わったはずなんですが、もともと蓮の話の中に入れていたものを別にしました。
序章という感じで(大袈裟だけど・・・)次から蓮の話です。題名は「once in a blue moon」
楽しめるかな〜〜〜?楽しめないかなぁ〜〜?微妙です。ちょっと大人かも。年齢的にも
30歳設定なので。まぁ皆が楽しめるような話ではないと思いますが(もともと私のサイト
自体が)妄想爆発したので書かせてください。