「Oh My Angel」(13)

あやねやちづと会って、元気をもらった爽子だが、家に帰ると・・・。
これは「Oh My Angel」          10 11  12 の続きです。
以下からどうぞ↓






















その日、家に帰った爽子は、玄関に見慣れた男物の靴が置いてある

のを見つけて、慌ててリビングのドアを開ける。


「あらっ爽子。おかえり!」

「おかえり〜爽子。聖くんが来てるよ」

「おかえり!」


そう言って、3人はリビングで団らんをしていた。

市東はもちろん小さい頃からの許婚同士なのだから、家に来るのは

珍しいことではないが、この時ばかりは爽子は焦った。


(もしかして・・・・!)


「爽子〜〜〜!聖さんが挨拶に来てくれたわよ。ついに結婚ね!」

「ちょっと早いと思ったが、聖くんなら何も迷うことはない」


そう言って、両親は嬉しそうに微笑んだ。そうなることをずっと望んで

いたのだから、当然の反応だ。


(どうして、いないって分かってて突然来るんだろう・・・)


爽子は初めて市東に反感を覚えた。今日、出掛けることは市東も知っていた

からだ。そんな爽子の様子をじっと見ていた市東が言った。


「あやねちゃんやちづちゃんは元気だった?」


市東はにこやかな笑顔で爽子に聞いた。


「う、うん・・・・。ちょっと着替えてくるね・・・。」


ぱたんっ


「ま〜今日はゆっくりしていってくれよ。聖くん」

「ありがとうございます」


わはは〜〜〜〜


1階の賑やかな様子に入っていけない爽子は部屋から出られないでいた。


トントンッ


「爽子〜〜?お母さんだけど」

「あっ今、行きます!!」

「ちょっと入るわよ」


カチャ


そこには明らかに不安そうな表情を浮かべる娘がいた。


「爽子・・・・ちょっといい?」

「あ・・・はい」


母はベッドに座り、椅子に座っていた爽子と向かい合わせになる。


「もしかして・・・結婚に不安を感じてる?」

「・・・・・・。」

「何かあれば・・・「−ない」」

「何も・・・ないよ。ありがとう。お母さん。行こ」

「・・・・・・。」


そう言って、爽子は母の顔を見ずに下へ移動した。


お祝ということですきやきを4人で囲む。夕食を食べながら式の日取り

や式場など嬉しそうに話す父。今まで見たことのないような嬉しそうな

表情で市東と晩酌をしていた。


(やっぱり・・・・言えない)


両親に心配をかけるわけにはいかない。爽子は必死で笑みを作った。


そんな娘の様子を心配そうに見つめる母だった。



****************



「はぁ――――っ!腹いっぱい。」


市東の帰りを近くまで見送るために爽子は一緒に外に出た。


「あの・・・・どうして今日突然?」


爽子は俯きながら言いにくそうに市東に聞いた。


「・・・・早くにご両親を安心させたかったからだよ」

「・・・・・」

「師長にもどうして?」

「どうして言っちゃいけないの?結婚するのに」

「・・・・・」

「聖さんは・・・・私が仕事を続けるのは反対なの?」

「・・・・。珍しいね。爽子が質問ばかり」



しばらくの沈黙の後、爽子は市東にぐいっと手を引っ張られた。


「!」


そして、後ろの公園の木に爽子を押しつける。どんっ


「ひ、聖さん・・・?」


いつになく乱暴な市東の行動に爽子は戸惑った。

そして、爽子の両腕を掴み、爽子の唇に市東は無理やり自身の口を押しつけた。


「・・・んっ!!やっ・・・」


爽子は必死で抵抗しようと思ったが、男の力にはかなわない。市東は爽子からの

言葉を遮るように唇を塞ぐ。何回も何回も角度を変えて、強引にキスを繰り返した。

しばらくして、爽子からの抵抗がなくなったことに気付き唇を離すと、爽子の瞳から

大粒の涙が次から次へこぼれていた。


「・・・どうして、泣くの?俺達結婚するんだよ」

「ひっくっっっく・・・」



市東は俯いたまま泣いている爽子をどうしようもなかった。そっと爽子の肩から

手を離した。


「・・・ここまででいいから。それじゃ」


市東はうつろな目をしてしばらく爽子を見つめると、後ろをくるっと向いて

去って行った。

「・・・・・・」


(傷つけてしまった・・・・。でも)


爽子は思わず唇を拭った。初めて、市東に嫌悪感を感じたのだ。今まで

何回かキスはしているのにこんな気持ちになったのは初めてだった。

そして、頭に浮かぶのは・・・・翔太の顔。

爽子はしばらく木にもたれかかっていたが、その後何かを決断したように、

くっと顔を上げたて家路に向かった。



****************



「あら?浮かない顔ね?せんせー」


市東は爽子と別れた足で、行きつけのバーに向かった。バーのママは

酒を作りながらカウンターの市東の相手をする。


「べっつに〜〜」

「慰めてあげようか?」

「う〜ん。ママじゃなぁ〜」

「何よぉ〜失礼ね!」


アハハ〜〜


「・・・・今時さ、男と女がいてさ、身体の関係がないなんてあり得る?」


市東は飲んでいるウィスキーの氷をカランと揺らして、それを見つめながら言った。


「っていうか、まず先生ってことないわよね?」

「俺じゃあり得ないって?」

「う〜ん、考えられないわね。先生のことたらしだとは思ってないけどね〜〜」

「だって、女が寄って来るんだからしょーがねーじゃん」


職場の市東とはまた違った顔がここにはあった。


「エリート、若手No1、将来の院長候補なんて・・・言われ続けてたらさ」


そう言って、ははっと薄ら笑いを浮かべると、グラスのウィスキーをくいっと

全部飲みほした。


「あら〜〜先生。珍しいわね。いつも自信たっぷりなのに。彼女と上手く行って

 ないんじゃないの?」


ママはちょっと皮肉っぽく笑って言った。


「俺の彼女ってどんなだと思う?」

「う〜〜ん。やっぱり美人でそっと先生を支える感じの人かな。それで、先生は

 外で愛人を何人も抱えて・・・」

「やっぱ俺ってそんな印象なんだ?」


アハハハ〜〜


「俺、結婚するんだ」

「へぇ〜〜〜ついに身を固めるんだ。先生の奥さんになる人は幸せじゃない。

 完璧な旦那さんだもんね。隙がないから、浮気も絶対ばれそうにないしね」

「ひでぇ〜な〜〜」


二人で大笑いをした後、真面目な顔になった市東が呟いたのをママは気付かなかった。


「でも、たった一つ手に入らないものがあるんだよ・・・」


カランッ


そこに一人の女が入ってきた。


マティーニお願い」


その女は市東と同じカウンターに座った。女は長い髪で真っ赤なドレスを着ていた。

そして、明らかに市東に誘惑の視線を送っていた。その視線に気づいた市東が

いつものように言う。


「それ、俺のおごりです」


市東はママから出されるマティーニを指して言った。


「あら、ありがとう。そちらに行ってもよろしい?」

「どうぞ」


そして、二人はしばらくバーで飲んだ後、店を出て、ホテル街へと消えて行った。

ママはその時、市東の未来の妻に少しばかり、同情したのであった。








あとがき↓

市東の私生活の巻でした。完璧な市東が”たった一つ手に入らない”存在
はなかなか手放せませんが、そんなにどろどろは長くしないです。早く、
次のお話が書きたくなってきたので(笑)それではまた見に来てください。

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