After Glow 9

オリキャラ主人公、爽風CP揺らぎなし。爽子は新任の高校の保健の先生、風早は大学を
卒業して家業を継ぐという設定。原作高校卒業後のパラレルです。そしてただいま、風早
アメリカ在住中。


☆山野井に爽子との仲を聞かれ、否定できない自分に戸惑う九条だが・・・? 


この話は ★ After Glow 1 2 3 4 5 6 7 8 の続きです。











After glow 9











「で、本当のとこどうなんだ?」
「・・まだその話続いてたんですか」


山野井行きつけの定食屋はきれいと言えないがかなり味がいい。九条は表情を変えずに
そう言うと、大盛りの焼き肉丼を頬張った。その隣で山野井はぷはーっと美味しそうに
ビールを飲み干す。


「先生こそいいんですか?奥さん待ってますよ」
「外のビールは上手いんだよ。毎日じゃないからいーだろ?」
「まぁ、そうでしょうけど」
「お前の方が心配だよ。毎日何食べてんだか。一人暮らしなんだろ?」
「それなりに惣菜買ったりしてますよ」
「早く、料理を作ってくれる彼女とか作れよ。お前なら選び放題だろが?」
「・・別にいいです」


すると山野井は呆れ顔で目を線にして九条を見る。


「・・何ですか?」
「お前さー今、まさに青春真っ只中なのにそんなこと言うなよ」
「なんか、古い言い回しですね」
「ほっとけ。ま・・色々なモン見過ぎたんだろうけどさぁ。俺は別に禁断の恋でもいい
 と思うぜ。卒業したら年の差なんてないに等しいモンだしな」
「・・・先生、そんなこと推奨したらファイアー(首)モノですよ」
「いいじゃないか。俺はお前が生きる希望を見つけてくれる方が嬉しいよ」
「・・・」


山野井は最初から他の教師とは違った。知識は豊富だったし、何より俺がどんな人間だ
としても分け隔てを感じなかった。権力にひれ伏す人間が周りを固めている俺にとって
最初は警戒しかなかったが、今から考えたらこういうところなのかもしれない。俺の中
の分厚い壁を壊したのは・・・


「それに冷やかしで言ってるんじゃないんだ。”あの人”だからだよ」
「は?」
「なんか他とは違うよな。変な言い方だけど、ある意味”聖母マリア”というか・・・
 汚いものを寄せ付けない強さがあるように思う。ちょっと心配になるほど今時なとこ
 ないしなぁ〜」


山野井は自分の言ったことに豪快に笑った後、真顔になって言った。”普通の女はお前
には無理だよ”と・・・。「僕は怪物ですか?」と冗談を言ってみたりしたけど、山野
井の言うことは多分当たってる。彼女は特別だ。


「ま、先に誰かに目をつけられてないといいけどな」
「!」


最後に山野井が言った言葉は別れた後も俺の心に残っていた。


* *


ガチャッ


九条は真っ暗な部屋に入ると、どさっとカバンを床に置き冷蔵庫を開けた。そしてミネ
ラルウォーターを取り出しごくごく飲みながら部屋中を見渡した。フローリングに低い
ベッドしかない部屋。月明かりが幻想的に窓を照らす。例え、「ただいま」と言ったと
ころで返事が返ってくることはない。でも家に居た時も同じだった。人が居てもまるで
一人でいるような空間。今の方がよほど孤独感を感じない。


「ふーっ」


ペットボトルを持って窓枠に座ると、その光景をぼんやり眺める。今夜は月明かりが眩
しい程の夜だった。


”『先に誰かに目をつけられてないといいけどな』”


「・・・」


九条は持っていたペットボトルを一気に飲み干した。その時携帯がなる。そこに表示さ
れた名前を見て辟易したように再び月に視線を戻す。長いコールの後、留守番電話に切
り替わった。


『ー慧さん?母です。いつも留守番電話なのね。全く実家に顔を出さないですけど元気
 にしてますか?近々大切な催しがあるから戻ってください。お父様もお爺様も心配な
 さってますよ』
『・・くれぐれも、あの時のような問題は起こさないように、九条の名に恥じないよう
 に行動してくださいね』


ピーッ


「くそっ」 バンッ


九条は持っていたペットボトルを壁に投げつけると布団に潜り込む。
名誉や権力のことしか頭にない家族。それに抗えない自分。結局、俺はまだ子供で親が
いなければ満足に生きることさえ出来ない。そんな自分に出来るのはいつの時も知識だ
けだった。一人で生きていくための武器を俺は持たなければいけない。そのためには友
人も恋人も何もいらなかった。あいつを負かすためなら何でも良かった。早く、自分の
足で立ちたい。あいつの権力に握りつぶされないためにも。


(もう二度と、あんな思いはしたくない・・・っ。いや、させない)


九条は明るい月を見上げながら、心の中でそう呟き、ぎゅっと拳を握りしめた。


(・・ん?)


その時、ポケットに違和感を感じた。手を伸ばして中を探ると、中からくしゃっと潰れ
たクッキーが出てきた。九条は起き上がって手の平をまじまじと見つめる。


「あ・・これ」


爽子が余ったからとくれたものだ。潰れた破片を口に放り込む。口いっぱいに広まる甘
苦いクッキーの味。病みつきになる味だった。そして爽子の優しい味だった。”うまい”
と言うと目を輝かせて薬草があるという庭を見せてくれた。”利尿作用”とか”便秘”とか
変な札が何個か土にささっている。


”『なに・・コレ?』
 『みんなが飲んでくれたら少しでも健康になれるかと・・』
 『それ趣味なんですか?』
 『うん、楽しいよっ!!それに・・みんなの少しでも役に立てたら嬉しいから・・』”


そう言って本当に嬉しそうに笑う黒沼爽子。その笑顔は山野井と同じように聖母マリア
に見えた。薬草を育てる聖母マリア


「・・やっぱ変な女」


そう言って九条はふっと口角を上げた。自然に尖った心が溶かされていく。確かに山野
井の言う通り俺はあの人が気になっている。もっと知りたい・・・と思っている。


Plululu


再び携帯が鳴った。九条は落ち着いた気持ちが一気に逆立つ。


「いいかげんにしろって・・っ」


九条は舌打ちすると乱暴に携帯を手に取り画面を確認した。すると予想に反して非通知
設定という表示だった。警戒しながら通話ボタンを押すと、聞き覚えのない男の声が聞
こえた。


『九条か?』
「・・あんた誰だ?」
『ポストを見ろ。封筒があるはずだ』
「!」


すると電話の男の指示通りそこに一通の封筒がポストに入っていた。九条は冷静にその
封筒を手に取る。怪しい男の突然の電話、指示に封筒の中を警戒しない訳はない。それ
を見越してか男が再び口を開いた。


『中を見ないと後悔するぞ』
「・・・」
『別に、爆弾なんか入ってないよ。ふふ・・写真が入ってるだけさ』


(写真・・?)


確かに封筒はかなり薄い。九条は思い切って封を切ることにした。するとその男の言っ
た通り、写真が入っていた。


「!!」


とくん・・と心臓が鈍い音で脈打った。
そこにあったのは爽子と九条が抱き合っている、アングルの違う2枚の写真だった。


(これ・・あの裏庭だ。やっぱりあの時の・・)


九条が頭の中で思考を巡らしていると、その心情を見透かすように男は言った。


『他にも持っている。全部消去して欲しければ、学校の体育館倉庫に今すぐ来い』
「・・体育館倉庫?」


男の声は何か布を口で隠しているのかくぐもった声だった。分からないようにしている
のだろうが、誰なのか、その男の真意も全く読めない。耳に神経を集中させる。


『・・お前の大事な養護教員がどうなってもいいのか?』
「っ!・・黒沼がいるのか?」
『・・ふっ、どうかな』
「おいっ・・!」 プツッ プープープー
「もしもし、もしもし・・っ」


切られた電話を呆然と見つめる。悪意を感じる視線。なぜか爽子と二人の時に感じた。
危険は感じていたのに、結局爽子を巻き込むことになったことに九条は強い苛立ちを感
じた。


「くそっ・・黒沼は関係ないだろ!」


そう言い放ってベッドに携帯を投げつけた。そして罠と分かっていても体育館倉庫に向
かって走っていた。巻き込みたくない・・守りたい。



九条の中でその想いだけが駆け巡っていた。











After glow 10 
















あとがき↓
お久しぶりです・・・夏が終わり、寂しい秋がやってきました。そしてやっと静かに
黙々と執筆活動(笑)またぼちぼちと書いていきます。よければ暇つぶしにたまに覗
いてやってください。相変わらずののんびりペースですが。