「Once in a blue moon」(66)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46
47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 の続きです。

 

☆ 仙台七夕まつりを見に来た麻美と蓮だが決裂してしまった。大きな分岐点に立たされた蓮
  は思い悩む。その後意識が遠のいて・・・?



















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 67 ‥…━━━☆

















『あんたはあの人にそっくりね』


そう言って母親の赤い唇が上がった。なぜあんな真夜中に目が覚めたのだろう。覚めな
ければトイレに行くこともなかったし、玄関で靴を履いている母親と鉢合わせすること
もなかったんだ。パジャマ姿で目を擦る俺に母親はまたあの笑みを浮かべた。
どうしてそんな風に笑うの?


『そんなところが嫌なのよ。まだ7歳のくせに』
『・・・・』


何も言えなかった。そしてただ母親をじっと見つめた。すると母親は顔を歪めて、冷た
く視線を逸らして家を出て行った。がらがら・・と玄関の音が響く。本当は行かないで
欲しいのに何も言えない。だって言っても鬱陶しいだけだろうから。だからじっと何も
言わずに母親の背中を見送るんだ。また絶対帰って来るんだから・・・!!
俺は待ち続けた。兄も出て行ったまま帰ってこない。父親は飲んだくれている。こんな
家、俺もいつか兄のように出て行ってやる。そう思いながらも心のどこかで期待している。
夜中に玄関が開くのを。


がらがら


『ーっ!!』


(ほらっ!帰ってきた)


俺は慌てて飛び起きて玄関に向かう。母親は俺を見ると少し驚いた顔をした後ため息を
ついた。


『なんだ、まだ起きてたの?』
『あのねっ・・』


母親はやっぱり帰ってきた。言いたいことは沢山あるのに言葉が出ない。なぜなら母親
の俺を見る顔がか険しいから。


『なによ?馬鹿にしてんの?捨てられたって思ってんでしょ。何か言いなさいよ!!』
『・・・・』
『あぁ〜〜鬱陶しい』


そう言って、母親は頭を掻きながら部屋に入って行った。赤い唇の代わりに赤いハイヒ
ールが玄関に転がっている。俺はその場に裸足のまま佇むことしかできなかった。
やっぱ鬱陶しいんだ。馬鹿に何てしていないのに。そしていつも母親はその後こう言う
んだ。”嫌なとこばかりあの人にそっくりね”・・・と。あの人とは父親だ。
大人は自分の都合で ”優しさ”や”冷たさ”を向けそれに翻弄される子ども。だから大人
の表情を見れば分かってしまう。それが本音かどうか。そういうところが母親にしたら
かわいくなかったのだろう。早く大人になりたい。誰にも頼ることなく生きられる大人
になりたい。でも所詮あの人たちの子どもだ。あんな大人になるんだろうか。
いや、なりたくない。人のことには干渉しない。だから俺にも近づかないで欲しい。

いつの頃からかそんなことばかり考えていた。


『風早翔太!よろしく』


あぁ、こんな子どもだったならかわいがられたのだろうか?きっと苦労もせずに親の
愛情に包まれてぬくぬくと成長したのだろう。でも深く知ろうとも思わなかった。
それなのになぜ、こんなに俺の心に入ってくるんだろう。土足でもなく自然にあの笑
顔で・・・。俺はあいつの”強さ”に惹かれていったんだ。その強さはどこからくるも
のなのだろう。いつの間にか俺から近づいていた。
あ、そうか。翔太は本当に大切なものを知っているんだ。そこに微塵のブレもないのだ。


『く、黒沼爽子です・・・』


上手く笑えない彼女の笑顔がぎこちなかった。上手く笑えていないとなぜ思ったのか。
彼女の本当の笑顔はどんなだろう?翔太の前でどんな風に笑うのだろう?
気づいたら翔太の時と同じ、俺から近づこうとしている。自分で自分が分からなくな
った。でも分かったんだ。二人といる時、あの時の感覚とはまるで違うものを感じる
ことを。そう、大人の都合のいい言い訳もない。駆け引きもない。汚いものを一切感
じない。こんなに自分と違う人間に出会ったことがなかった。見ないようにしていた
だけなのだろうか。こんな不思議な感覚は初めてだった。彼女もまた強い。強いから
優しい・・・。誰よりも優しい。


『わたし・・風早くんを信じています』


なんて真っ直ぐ汚れのない目で言うんだろう。自信とかそういうんじゃない。彼女は
自分自身に誠実なのだ。その目を見ていると満たされた気分になるのはなぜだろう。
まるで乾いていた土の上に水が注がれるように。体中が潤っていく。
あぁ・・・俺、今まで間違ってたのかもしれない。人の優しさに目を向けようともし
なかった。そして、自分がこんなに枯渇していることに気付けなかった。ずっと水を
欲していたんだ。考えることさえやめていた俺にきれいな水を注いでくれた。
その真摯な瞳で、純粋な心で。


だからこそ守りたい。何があっても二人が幸せであるようにと、俺は生まれて初めて
譲れない大切なものを心に強く感じた。大切なんだ。二人が。


でも・・あの目をこれ以上見てはいけないと本能的に思った。


『好きなのに・・・つらいです』


俺と美穂のことを思って泣いている。そんな純粋な涙を俺のためなんかに流したらも
ったいない。泣かせたくないのに。もっと笑顔を見たいのに。幸せでいて欲しいのに。


『・・・風早くんをこれ以上傷つけるのは嫌なんです・・・』


アイツが傷つくのはアンタがいなくなることだよ。アンタ以上に大切なものなんてア

イツにはない。すべての歯車が狂い出した今、伝わらない。俺のせいだ。

絶対守りたかった。二人の幸せを。絶対彼女を笑顔にしたかった。二人を見ていると

幸せな気持ちになれた。


良かった・・・


二人が笑っている。彼女が笑ってる。この顔が見たかったんだ。絶対離れるはずのな

い二人だからどんなことがあろうと乗り越えられると信じてた。俺が唯一憧れる男だ。

彼女をずっと大切に守り抜くだろう。


『ありがとう・・・』


それはこっちのセリフ。アイツの横で幸せそうに微笑む純白なウェディング姿の彼女

は本当にきれかった。これで全てが終われる。


終われる・・・?


* *


「蓮さん・・・っ!」


彼女の声が聞こえた。結婚式の途中なのにこんなところになぜいるのだろう。心配そ

うに俺を覗き込む。


「翔太が・・っ・・・はっ・・・」


翔太が心配するから早く戻って・・・


「え?蓮さん??・・なんて?」


俺は大丈夫。アンタが笑ってくれていたらそれでいいんだ。




蓮の虚ろな目が再び閉じられた。







「Once in a blue moon」 67 へ














あとがき↓
とりあえず状況伝えず、蓮の心の中を書いてみる。長く書いてなくて、今さらどんなだった
かなぁ〜〜と(笑)最初書きたかったことだけは覚えているのでそこに向かって終わらせて
いくつもりです。かなり放置していたにも関わらずコメント下さった方、本当にありがとう
ございました!!ゆっくりペースになると思いますが書いて終わらせますので、最後までよ
ろしくお願いします。