「Once in a blue moon」(53)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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47 48 49 50 51 52 の続きです。
 


☆ 向き合う覚悟を決めて蓮の家に行った麻美は・・・?麻美目線で蓮と麻美場面続きです。



















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 53 ‥…━━━☆



















今まで付き合った彼氏の部屋に行きたいと思ったことはなかった。でも蓮は違った。

なぜ気軽に誘ってくれないの?全部見せたくないから?それともズルズルとそのまま

結婚を意識させられそうで嫌だから?・・・不安ばかりが募った。でもそんなことよ

り最初は純粋に蓮の部屋が見たい気持ちだったのに、段々と違ってきているような気

がした。


そこに何かあるの・・・?


疑いたくないのに、心のどこかで拭えない気持ち。その何かを探るために私は仙台に

行ったのかもしれない。


その答えはこの部屋にあるのだろうか?

いや、もう私の中にあるのかもしれない。

何度拭おうと思っても拭いきれなかった、醜い感情。

それは苦しくて・・・・ものすごく痛い。



* *


「蓮・・・今から言う事に正直に答えて」

「・・・・」


二人は小さな机を挟んで向かい合う。コーヒーを入れた後、重い空気に耐えられなか

った蓮が ”テレビでもつけよっか” と立ち上がった時、麻美はそっと蓮を制止した。

蓮は抵抗せずそのまま腰を下ろす。


駅近だが造りが良いのか電車の音は殆ど聞こえなかった。静寂を好む蓮らしい。

だが、今はその静寂がさらに自分を追い込んでいくような気がした。


トクンッッ


あの日見た光景がずっと自分を支配していた。

身体の震えが止まらなかったあの日、あの時。戦慄が走った。ずっと脳裏から離れな

かったあの時の蓮の目。そしてその瞳の先。


なぜ?・・・なぜあんな目を向けたの?今もずっと否定している、いや否定したい。

だけど、否定できない自分がいるのは事実。だから・・・


「蓮・・・・」


麻美は震える手をぎゅっと握りしめた。でもなかなか言い出せない。蓮は様子のおか

しな麻美に最初から気付いていた。じっと目を逸らさず麻美を見つめる。

どれぐらいの時間が経過しただろう。


カチカチカチ


腕時計の時を刻む音も聞こえるほど静寂に包まれていた。


(蓮の目力にやられるっ・・・)


麻美は限界とばかりにすーっと息を吸い込むと吐き出すと同時に言葉を発した。


「蓮が幸せになれるにはどうしたらいいか・・ずっと考えてた」


真剣な目がぶつかる。


「過去があるから・・・幸せになれないのかと思ってた」

「・・・・」

「でも・・・でもっ違う・・・」


とくん・・・とくん


自分の心臓の音がリアルに聞こえすぎて気持ち悪くなる。

蓮は微動もせずに私を見ている。一挙一動見逃さないと言う風に見受けられる。

私も睨むように蓮を見つめ返した。そうしないと今にも涙があふれそうだった。


ずっと心の中で棘のように引っかかって前に進めなかった。

・・・聞きたくてずっと聞けなかったあのことを・・・。


麻美はごくっと生唾を飲み込むと心の声をしっかりと言葉にした。



「蓮は・・絶対好きになってはいけない人を・・・好きになったから」



今度は麻美が一挙一動見逃さず蓮を見つめた。

もう・・・時を刻む音さえ聞こえない。

聞こえるのは自分の心臓の音だけだった。



* * *


ザーザー


いきなりすごい雨が降り出した。風早家の窓にも打ち付けるような激しい雨音が聞こ

える。


「うわ・・・すごい雨。もうすぐ雪になるんだろうけど・・・ね?ゆづちゃん」


結月は窓から雨をずっと見ていた。爽子の声にも振り向かない。爽子はそんな結月を

変に思い、近くまで寄って顔を覗き込む。


「ゆづちゃんっ・・・!」


爽子はハッとした顔で結月を見つめた。なんと、結月の頬には大粒の涙が伝っては落

ちていた。次から次へと落ちていく涙。


「ゆづちゃん・・・大丈夫だよ」


爽子はぎゅっと結月を抱きしめる。結月はいろいろ感じてしまうようで、時々意味も

なく泣くことがあった。赤ちゃんの頃からあまり大人を困らすことがなかった結月だ

が、我慢をしているようでもなく自分の世界で楽しむような子だった。まるで見えな

い誰と遊んでいるかのように。だからこんな夜は何かを感じてしまい不安になるのか

と思っていたが・・・もしかしてそれだけではないのかもしれない。


「ぐすっ・・っうぅっ」

「・・・・」


そう思えるほど、この夜は激しく泣いていた。

今までそのままの結月を受け止めてきたつもりだが、周りから言われるように障がい

的なものも考えた方がいいのか?精神的なものだろうか?


なぜ・・・結月は喋らないのだろう?



雨はさらに激しさを増す。激しい雨音に共鳴するように泣き続ける結月を見つめなが

ら爽子は初めてそのことを疑問に思った。










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あとがき↓

結月のことも少しずつクローズアップ。でもオカルトとかではないです・・・(´-`)